見出し画像

ある犬達と飼い主さんのこと。

休日のウオーキングでよく訪れる公園にしばしば見かける人と犬がいる。

いつも2匹のトイプードルと歩きながら自転車を押している。
犬達がかわいいのと飼い主の人柄からか、他の犬散歩の人達とだけでなく犬を連れていない人や売店の人と談笑などしているのを時折見かける。

彼らと初めて接したのは数年前、
当時ときどき休日午前の居場所にしていたあまり人の来ない東屋に坐っていた時のこと。
ふと気づくと足許に1匹の犬がきていた。
つやつやした少し茶がかった黒毛で目元まで覆われた小さな子が丸っこい眼でこちらを見上げてきているので思わず撫でていたら(犬は好きなのに触れるのが苦手なのだが…)、少しして「ごめんね~」という声と自転車を押す人が近づいてきた。
どうやら東屋の脇の水場に来たのらしい。
自分から離れた犬とその人の近くにいたらしいもう1匹の犬がそこで水を飲んだ後、さっきの犬がまた近くに来てベンチに乗って膝元に来た。
おかげでまたその子を撫でつつ少し飼い主の男性(70代中ほどか)と挨拶ほどの会話をした。
その頃は今とそれまでよりも人と接するのが苦手だったこともありそれ以上のことはよく覚えていない。
別れた後、つやつやして少ししっとりした毛の感触と手にあまりにおいが残っていず、きれいにしているのだなと感じたことと、まあ公園に来ていればこうしたことも時にはあることだろうとそれだけの印象だった。

しばらくして同じシチュエーションでまた出会った。
この時もまず1匹が近づいてき、その子を撫でながら飼い主さんとの少しの会話(天気とか、そんな話)。
そんなことが何度かあった。
たいてい1匹が前や周囲を元気に駆けていて、後ろに自転車を押したその人ともう1匹(こちらは自転車のカゴにいることが多い)。
会うたびに駆けている子が近づいてきて丸い瞳で見上げてくるのでこちらを覚えてくれたようにも感じ(ただの思い込みで犬好きか無害な存在としての認識だとは思う)、この子達は気持ちの抵抗なく撫でられるようになった。
もともと話し好きな人らしい。
たいていその人が少ししゃべって別れるのだが、そのうち日に2度は犬の散歩でここに来ていることや、駆け回っている子がカゴにいる母親の子だということを聞いたりもした。

犬達の名前を聞いたのは5,6度ほどしてからだったと思う。
〇〇ちゃんと◎◎ちゃん。
(ふせているがどちらもそれぞれの子に合っていてかわいい名前)
彼はどちらにもちゃん付けで教えてくれたし、いつもそう呼んでいるようだが、小さな犬などをそう呼ぶことはよくあることで特に気にならないでいた。

その後のある日、彼が「ちょっといいかい」とベンチに坐り話しだした。
彼が話したのは、
子供の頃にいじめられたこと、
ずっとそれを忘れられずに生きてきたこと。
(問わず語りな感じだったのでこちらも詳しくは聞かなかったが大きなことだったことが伝わってきた)
ずいぶん時が経って同窓会でそのいじめた同級生からあの時はすまなかったと謝りの言葉があり黙って見返したこと。
そして、人も何も大切にするべきで、だからこの子達のこともちゃん付けで呼んでいること。

はじめて会ってから5年ほど経つ。
その後も時々会って話したり見かけたりしているが、今も彼は犬の親子をちゃん付けで呼びながら歩いている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?