凡人が最速で強くなれるたった一つの方法
もうすぐ、ブラジリアン柔術をはじめて成人になる年が経つ。
柔術歴と実力はある程度比例するが、完全に一致するわけではない。同じ経験年数でも人によって差ができる。
『では、この差はなぜできるのか?』
私の知る限り、努力による要因の中で、柔術が上手くなる人とそうでない人の違いは、たった一つしかなかった。ようやく、それを言語化して伝えることができる。
柔術の技量は数値化できない。ゆえに、どんなに練習しても自分が上達してるかどうかがわかりにくい。
(自分は本当に強くなってるのだろうか?)
などと、私も若い頃は悶々としていた。
なので、怪我せず地道に長く練習していれば、なんだかんだ上手くなっていく(=柔術歴)のは確かだが・・・
という思いは常にあったし今もある。
本稿を書く目的は、柔術が上手くなりたい人の練習効率を上げることである。
(俺は世界王者になりたい!!!)
みたいな熱量を持つ人には何も示せないので、ここで離脱して是非とも渡伯、渡米してほしい。
これは普通の人が使えば、間違いなく上達する方法であり、日々の練習の無駄を徹底的に省く為のものだ。決して最強を保証するツールではない。
【Chapter.1】上達する人といつまでも下手な人のたった一つの違い
まず、核心を書いておく。
何も考えず練習する人
習ったことを練習する人
練習したいことを考えて練習する人
この3タイプならあなたはどれに当てはまるだろうか?
私自身は紫帯の頃まで、練習量が多ければ強くなれると信じていた。何も考えずに練習してたわけではないが、日に複数回練習する日々が続くわけで、疲労により特段何も考えずに練習した日も少なくなかった思う。
私が天才だったならば、それでも世界クラスの柔術家になれたかもしれないが、現実は甘くなかった。
経験が浅い人であったり、レッスンを真面目に受ける柔術家は2番に多いと思うが、一番上手くなるのは3番のタイプである。
少し、修正して・・・
『練習したいことを学んで練習する人』
このタイプが最高である。
そして、ここが皆の練習効率を下げている最重要ポイントなのだが、冒頭にあるように、柔術の進歩具合は見えにくい。
これがパッとわからないんだ・・・
だから、これを見える化すればいい。
0. Starting Point(課題の抽出)
これを読んでる柔術家のレベルは一律ではないはずだ。
そうでないならば、普段の練習(スパーやドリル)で自分が上手くできないところがあったり、周りが上手かったり、相手に圧倒されたり・・・と、まぁ、様々な課題にぶつかっていると思われる。
上達を目指す上で一番最初にやらなくてはならないことが
これを明確に定めることである。
(そんなこと言われんでもわかっとるわ・・・)
なんて思われるかもしれないが、次のようになってないだろうか?
やらない事を決める
例えば、普段のスパーリングにおいて、相手に簡単にパスされてしまったとする。そこで、私は感覚レベルでガードリテンションが課題だと認識する。
5分休憩したのち、次のスパーではトップゲームを展開したが、相手のラッソーを上手くパスできない。よって私はラッソーの解除が課題だと思う。
再び、5分休憩したのち、スパーに臨んだら、今回は上手くガードができて下から腕十字を仕掛けることができた・・・が、極めきることができず時間切れになってしまった。なので、私の課題は腕十字の精度だな・・・
4本目のスパーでは疲れて何もできなかった。やっぱ私の課題はスタミナ・・・
さて、私の課題はいくつ出てくるのだろうか?
おそらく、スパーリングを一本こなす度にプラスで複数の課題が抽出できるだろう。だがしかし、一回の練習で向上させることができることは限られている。
仮に上記の4つの課題に1日で均等に取り組めば、それぞれ25%の取組率となるが、1つの課題に絞れば100%となる。果たしてどっちが良いのだろうか?
一回の練習で、どれだけの課題をクリアできるかは、あなたの才能にお任せするが、練習は集中×時間なので、凡人柔術家の経験からは、一回の練習で取り組む課題は少なくすることを推奨する。
課題レベルの精度
上の例では、スパー中の感覚(記憶)から自分の課題を見つけていたが、その感覚が正しいかどうかは定かではない。
経験上、強い柔術家は試合やスパーリングの記憶が鮮明である、その能力が強さに必須なのかはわからないが、ある程度は関係あると思われる。
私のキャリアでは、経験が浅い頃はたいして試合やスパーの内容を記憶できなかったが、今はかなり鮮明に記憶できる。
ということがあり、自信があるなら自分の記憶を頼りに課題を抽出してもいいが、私は凡人なので自分の記憶というのが、不鮮明であったり、自分の都合の良いように書きかえられたり(無意識に)するものだということを知識で知っている。つまり、自分の記憶を信用してない。
なので、ずっと動画を撮影して
する事を推奨している。
私は自分のスパーリングを撮影して、必ずその日の内に確認するのが日課である。そして課題を見つける。
動画を確認する労力は、撮った本数に比例する。
もし、私が世界王者を目指すような本気の柔術家であったなら、全ての練習を記録して、時間をかけて見返すほどの熱量があった思う・・・がそうでなかったし、現実的には5分〜10分の動画を見るのも大変な(眠くなったりね)人もいるだろう。
そこは無問題!
5分のスパー動画だけでも、課題は必ず複数あるので、一本(ドリルや打ち込みもOK)だけでも撮って、その日の内に見返してほしい。
感想戦
課題抽出において、より精度が高いのは、自分よりレベルが高い先輩や先生による客観である。
スパーの後に、対戦してもらった(もしくは周りで見ていた)先輩や先生に、課題とアドバイスをもらうのは伝統的な方法と言える。ここに動画(事実)を加えるとなお良し。
将棋や囲碁、チェスの世界では、対局後の感想戦が常に行われる。
練習で汗をかいて、さっぱりして帰るだけってのが悪いとは言わないが、せっかく練習してるのだから1mmだけでも進歩したい。
スパー1本を見返すと、様々なミスが発見できるだろうが、自分が大きく崩れる局面が必ず1点あり、その点さえクリアしてれば後の展開にはならないのである。
というシチュエーションでは、
ガードリテンション
サイドからのエスケープ
マウントエスケープ
腕十字のエスケープ
などが課題になりえるが、そもそもパスされなければ、サイドやマウントからのエスケープの展開にならない。
みたいな時に、エスケープを課題として練習するのは効率が悪い(不要ではない)ので、先輩や先生にどこが起点になったか聞いてほしい。
1. Entering The Loop(学びの循環)
キャリアの中で、柔術家だけでなく、柔道、レスリング、MMAの選手と練習する機会もあったが、強い人や上達が早い人の特徴に、
『対策を練ってくるのが速い』
というのがあった。
この対策というのは、スパーリングで一度受けた技の対策ということで、超優秀ならその日のうちに、遅くとも次の練習では何かしらの策を講じてくる。
練習の質をあげる
冒頭で、
『練習したいことを学んで練習する人』
このタイプが一番上達するとした。
自分の課題を抽出できたとしても、
では、後者の方が課題に対する解像度が高くなる。
体力要素を除けば、柔術は知識量で差がでるゲームである。
テクニックがオンラインで入手できるようになって久しいが、課題を闇雲に解決していくのではなく、現代のツールを活用して学習効率を上げてほしい。(※そんな事は既にやってるわ!っていう人は、次の項の落とし穴に注意)
もちろんここでも取捨選択は大事である。一つの課題に関連する動画を見ていると
(うわぁ〜こんな事もできるのか!)
みたいに、新しい発見があったりして、あれもこれもやりたくなってくる。知識をポケットに入れることは良いことだが、やはり一回の練習で実行できることは限られてるので、今やるべきことに集中してほしい。
そして、知識だけ詰め込んでも柔術は上手くならない。
実践〜疑問
(先生に習った技をやりたい!)
とか
(動画で学んだ技をやりたい!)
みたいに意気込んで練習に臨んでも、理想と現実は違って上手くできないことがある。というより、ほとんどがそうだと思う。特にスパーでは
この現象については複数の原因(e.g. 身体能力の違い,経験の違い,技術の理解不足etc…)があるが、ギャップがあるのは事実であり、そこを埋める必要がある。
みたいなギャップもあれば
学んだ技をスパーで試したところ・・・
(あれ?なんか思ってたのとリアクションが違う!)
みたいな、相手により変化するギャップもある。
もう、この時点であなたは学びのループ(自分専用の)に入ってるわけで、そこから一度離脱するのは時間の無駄である。右往左往してはいけない。
事前に準備した内容を練習で実践してみて感じたギャップこそが次の課題となる。
確認(復習)
ギャップの原因が身体能力でなかった場合には、技術で改善できる。
その際、簡単なのが
技術の理解不足の解消
Trouble Shooting
この二つである。
自分自身の動きが上手くできてない時には、はじめの課題で題材にした動画をもう一度確認してほしい。おそらく、一度目に観た時とは違うことが見えるはずである。
これにはいくつか理由がある。
①人は自分が思ってるほど人の話を聞いていない
②学習時の集中力の違い
③前提知識のレベル
1.うんちくを長々と語り尽くす柔術の教則動画を、一度見ただけで完全に記憶できるような人は、たぶん世界レベルの選手になれる。ほとんどの場合、10分程度の動画でも完全に覚えるのは難しい。
2.人間のパフォーマンスは集中力によって大きく変化する。一日の中で集中力は変動するので、集中力が高い時に学習したことの方が覚えられる。
加えて、個々の環境(体力や仕事など)にて頭の疲れ具合が変わるであろうから、自分が一番集中できる時間や環境、方法を知っておくのは大事である。
3.一度観た動画を復習する際、練習で実践したあとなら、動画の内容(知識)に加えて、実践から体得したデータ(ギャップも含めて)があるので、たとえ同じ動画であったとしても解像度(画面ではない)が高くなる。
私は、日本語であれば、同じものを2回見れば、ほとんど記憶できるが、英語だと精度が落ちるので、最低3回は観るし、もっと増える事もある。
前提知識によって動画の理解度が変わるのは、英文も同じようなものであり、文章の中の知ってる単語や熟語が多いほど簡単に読める。柔術の動画に使われる英語はそこまで難しくないが、母国語に比べると明らかに聞き逃しが増える。
Trouble Shooting
練習で技を試したものの、自分の理想の展開にならなかった場合、解決策を見つけなくては前に進めない。
上述のように、強い選手や上達の早い人は、すぐに対策を講じてくるので、マンネリ柔術にならない。
解決策を見つけるには、
身近な先生や先輩に教えてもらう
教則動画から見つける
自分で考える
この3つがある。
1.先生や先輩に聞けるのであれば、それが一番簡単であるから、教えてもらった上でリトライしてほしい。
2.多くの教則動画には、
「相手がこう反応してきたらこうする」
というトラブルシューティングがある。巨人の肩に立つではないが、あなたの遭遇する問題なんて、多くの先達がほぼ確実に通った道であり、解決策はすでに存在する。
事前に学習した動画を見返せば、実はのってたりするだろうし、同じテーマの動画を探せば、ほぼ確実に見つかる。それっぽいのを見つけたら、学んでリトライ
3.一番効率の悪いのが、自分で考える事だが、これには良し悪しがある。
稀に前例を探しにくいシチュエーションに遭遇する事もあれば、すでに技術があっても身体能力や骨格に難があり、自分では実行できない場合もあるので、自分で考える能力は養っていく必要がある。
私自身は、白帯の頃から自分でテクニックを考えるのが好きだった。私の作る技なんて、世界の誰かがすでにやっているというのは柔術界では常であるが、自分の知識が増えるのと相乗して、考えれる事の精度が高まったと思う。
なので、経験が浅い頃や真新しい技術を学ぶときは、1と2を主軸としながら3を少し実行するぐらいを推奨する。経験が豊富になれば、自分で考えた方がサクッと解決できることも出てくるだろう。
課題を見つける
学ぶ
実践
課題を見つける
復習、学ぶ、思考
イメージトレーニング(※後述)
実践
課題を見つける
2. Establishing the Primary Sequence(優先順位の確立)
ブラジリアン柔術の技は多い。
立技、パス、ガード、極めみたいな分け方ならシンプルだが、ガードだけでも多くの種類があり
クローズドガード
ハーフガード
スパイダーガード
カラー&スリーブガード
ラッソーガード
デラヒーバガード
リバースデラヒーバガード
ディープハーフガード
フックガード
シッティングガード
ワームガードetc・・・
書いてて嫌になってきた(笑)
とにもかくにも、学べること、学ぶべきことが多いことは、競技の魅力の一つである反面、学習者を確実に迷わせる迷路でもある。
ある程度、知識が増えてきたらフローチャートを作って、自分の武器を視覚化するのを推奨する。
技のフローチャートには、戦いの中での技の選択を迷わないようになるというメリットがあるが、学習面においてもやるべきことが見えるのである。
(今日はクローズドで、明日はディープハーフ、明後日はパスを練習しよう!)
みたいにコロコロやってみるのも楽しそうであるが、学ぶことに関連がある方が、記憶に定着しやすい。
よって、マクロでは、自分のチャートに連結できる(すべき)ことが課題になり、ミクロでは、練習でのフィードバックが課題となる。※フローチャートの最高のメリットは最後のFlow Chartの項で述べる。
理想的には?
チャートの流れであろうが、個々の技術であろうが、道に迷わないようにするコツが一つある。
それが・・・
ことである。
・・・とまぁ、気取ったワードは置いといて、要は
柔術やグラップリングで重視される技術は競技ルールによって定まるが、多くの競技会では、ポイント勝ちよりも、サクッと一本で(できれば鮮やかにカッコ良く)勝ちたいものだと思う。
しかし、現実はポイントゲームがメインとなるし、アドバンテージの奪い合いという、理想からはかけ離れたゲーム展開になることも少なくない。
どこを主軸として練習するかは、あなた次第であるが、私は極めて勝ちたい願望の持ち主なので、バックテイクからのチョークフィニッシュを優先順位第一位として、そこに向かうシーケンスを主軸としてきた。
という明確なゴールが一つあるだけで、たくさんある技術も整理されてくる。クローズドガードからもバックを狙えるし、テイクダウンの流れからもバックを狙える。パスのプレッシャーをかけてバック、ベリンボロでバック・・・
すべての道がバックに通じてるわけではないが、まずは理想的にはバックテイクを狙い、関連することを優先的に学習する。それが叶わなかった時に次のシーケンスを展開するのである。
3. In Summary
実例に入る前に簡単にまとめとく。
めんどくさいと思ったあなたへ・・・
ここまで読んでくれてありがとう。おそらく多くの読者はすでにツイッターやインスタを見ているはずだ・・・
あなたは、この練習方法をめんどくさいと思ったかもしれない。
正直、上達する為のめんどくさいことを、どれだけ実行できるかは、柔術に対する熱量による。それも人生の時間の取捨選択だ。そして、柔術に限らず世の中は、一番めんどくさいことをやったヤツが後に利益を得る。
めんどくさいを乗り越える方法はいくつかある。
環境に頼る
システムの導入
成功を得る
周りの柔術家の熱量に感化されることで、めんどくさいは無くなる。自分より熱い人に囲まれると自分をクロックアップできる。だから道場の選択は大事だ。
上記は、私の18年で経験した無駄を最大限省いたシステムだ。普通に練習していては見つけるのに時間がかかる物を言語化見える化しといた。はじめは面倒かもしれないが、少しだけ耐えて実行してほしい。
数週くり返すうちに、上達したと感じる小さな成功を得られると思う。あとは、一歩ずつ歩んでほしい。上達の実感がめんどくさいを上回るはずだ。
では、私の日常をもとに実例を紹介していく。丸々真似する必要はないが、情報を管理するツールを上手く利用すれば、さらに効率が向上するだろう。
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