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ぬぎっぱなしの色。4

「うっわー、久しぶりだな芝生書店。こんなにも世界で跳ねているかのように並んでいる本がたまらないんだよなー。」


「彰人、珍しくテンション上がってんじゃん。温度高まってるのなんて珍しいね。まー彰人は本が本当に好きだもんなー。」


「そりゃな、俺には文学しか生きる道はないと思ってるぐらいだからな。何もかも遠い時期に、救ってくれたのが本だったんだ。」


「へー、その話初めて聞くなあ。」


眩しくて眩しくて、世界の明かりが強すぎて生きるのが辛い時期があった。青いマグマのようなものが押し寄せてくるような、でもどこか魅力的で、斜陽のような暖かさもあった世界。あれは高校一年生の時だった。


「あーこの話は言ってなかったなあ。ま、別に大したことじゃないから、気にしないで。」


「なんだよ、もったいぶるところあんまり好きじゃないぞ。」


「へっ、だってほんとに大した話じゃないんだし。」


初めて彼女ができた。中学からの同級生で、身長が小さめ、体はふっくらしていてどちらかと言うと地味な感じだった。でも、真っ直ぐで諦めない心を持っているところがすごく魅力的で。最初は何が何だかわからなかった。向こうから言われるままに付き合うことになったが、それでも恋愛感情というものが実際にどう言うものなのか、やっとわかるのかなと思って、付き合うことにした。でも、結局はなんだかわからなかった。


一緒にいる時間が増える、話す時間が増える、甘ったるい言葉を言い合うことが増える。ただそれだけのために、人はなんで恋愛をするのだろうか。俺には好きな人とかそう言うのがあんまりわからなくて、泣き叫ぶ雷を背に、這いつくばって生きていた。


明快なストーリーがあるわけではない、軽快なステップも踏めないまま生きているこの感じがなんとも言えない違和感になって、今この瞬間、ちょっとした嗚咽に繋がっているなんて信二の前では口が裂けても言えない。正解のない世界だからこそ生きる価値があるなんて誰が言ったのだろうか。正解がある人たちのことが違う世界の住民に見えてしまう僕は、もしかしてこの星の住人ではないのだろうか。


感情に分け目があるとしたら、僕の心は2つあると思う。一つは男としての心、2つ目は女としての心。どっちも同じところに存在していると言うか、変わらない生き方をしているというのが正解な気がしている。崖から落ちるようにして生きているわけではないし、何なら2つのバランスが取れて安定しているとも言える。食らった数は覚えているし、馬鹿にされた言葉なんて数知れない。走りきった先に何かがあるとしたら、欠け替えのない思い出なんてこれっぽっちもいらない。


「いい本、あった?」


「うわっ、いきなり顔出してくんなよ!」


「あっはは、彰人真剣な顔してたから。ちょっと脅かしてみようかなって。」


「これ、買うわ。」


「蒼穹列車?誰の本?」


「生見健人さん、最近は日常と非日常をかけ合わせた物語が有名なんだよ。これは汽車の運転手の話。気になってたんだよね。」


「ほう、なるほどねぇ。俺はこれにする、じゃーん!!はまだ電気がオススメする、家電百科辞典!」


「うげ、出たよオタク、、、」


「芝生書店はこういうマニアックなのも売ってるから助かるよなぁ。いやぁ、探してたんだよこれ、やっと見つけたわ。」


「サマゾンで買えばよかったのに。」


「いや、本は直販で買いたいのが俺のポリシーなのでね。」


「ふ、同じ同じ。信二のそういうところ、いいよな。」


「あっはは。いいねぇこういう時間。」


本当に幸せな時間だ。この時間がずっと続けばいいと思う。それでも世間は俺達の関係を良いとは思ってないのだろうか。やっとのこと認められるようになってきたが、迷いを束ねて直接的に解決を図ろうとする人はまだ現れていない。果てしない鍵を開けるために、願いを叶えるためにはこんなにも苦労しないといけないのかと思う。


痛みを知らないあいつに手を降って、胸をなでおろして、帰路についた

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