うみのあそび

作家。明日のあなたがちょっぴり強くなる言葉たち。

うみのあそび

作家。明日のあなたがちょっぴり強くなる言葉たち。

最近の記事

あさひがのぼるまえに。6

一人の帰りはやっぱり寂しい。耳が消されても俺の存在は消えないのだから、甘えたところで何も生まれないのはわかっているけど、お分かりじゃないこの世間と目線を合わせなきゃいけないのが辛い。夜はこれからと思いたいが、俺は塗り重ねたこの時間が余計に辛い。 約束なんてできないのに、俺はみのりとの将来に期待してしまっている自分がいる。愛の類じゃないのはわかっているけど、やっぱり好きなことは確かなんだ。細かい男じゃないのはわかってるし、なんにもできないし意固地で優柔不断で世間に順応できない

    • ぬぎっぱなしの色。5

      「お、今日はパジャマじゃない。」 「俺をなんだと思ってんだよ。昨日も別にパジャマじゃないし〜。」 「うそつけ、昨日はパジャマだっただろ。」 蛭谷匠海(ひるやたくみ)、同じゼミで隣の席。うちのゼミはいわゆるガチゼミの部類で、週に4日、1限から授業がある。大半朝はこいつと過ごすから、もう慣れた。蛭谷にはなんの感情もわかないが、なんの感情もわかないぐらいのやつじゃないと朝は一緒にいたくないからまぁ良かったと思う。バイなことはこいつには言ってない。 「あ、そいえばさ、蛭谷って

      • あさひがのぼるまえに。5

        「御社の採用の問題点としては、やはり集客面にあると考えております。御三家の大学により手早くアプローチするためにも、わたしたちのサービスを、、、」 「なに?また営業の電話?うちなら間に合ってるからいいよ。ブチッ」 「はぁ、、、。」 振り替えり征く術をなくした天使は、幸せの定義を何と言うのだろう。風が詠うのは辺鄙な西洋史か、心が見出すのは宇宙の正解か。信じられないほど堕落したこの世界で、綺羅びやかに熙るのは明日だけなのに。俺は今日も同じような日々を繰り返している。 「石上

        • ぬぎっぱなしの色。4

          「うっわー、久しぶりだな芝生書店。こんなにも世界で跳ねているかのように並んでいる本がたまらないんだよなー。」 「彰人、珍しくテンション上がってんじゃん。温度高まってるのなんて珍しいね。まー彰人は本が本当に好きだもんなー。」 「そりゃな、俺には文学しか生きる道はないと思ってるぐらいだからな。何もかも遠い時期に、救ってくれたのが本だったんだ。」 「へー、その話初めて聞くなあ。」 眩しくて眩しくて、世界の明かりが強すぎて生きるのが辛い時期があった。青いマグマのようなものが押

        あさひがのぼるまえに。6

        マガジン

        • うみのあそびのなんだかんだ生きているんだから
          17本
        • うみのあそびの詩集
          3本

        記事

          あさひがのぼるまえに。4

          「おはよ、今日は休みだよね。」 「ああ、そう。土曜日だしな、どっかいく?」 「うん、いく。」 「どこがいい?最近あんまりリフレッシュできてないから、うまいもんでも食べに行きたいよな。」 「丸ビルでイタリアン食べたい。とびきり美味しいやつ。」 「お、いいね、いくか。でもまだ朝なんだよな。昼まで何するか。」 「この前買ったワンピースのゲームでもやろうよ。ほら、プレステの。」 「あー全然手付けられてないやつだ。やるかー。ちょ、その前に朝飯食べたい。なんかある?」 「

          あさひがのぼるまえに。4

          ぬぎっぱなしの色。3

          「ごめん、お待たせー。」 「いやいや、待ってない待ってない。信二はいつも時間通りに来るから、なんなら俺が今日は珍しく早かっただけだし。」 「あっはは、それでもなんだか感謝したい気分だったんだよ。ん、感謝?いや、なんだろうこの感覚は。」 「あーはいはい、始まりました信二の思考力パラダイス。もういいって。んで、新しい靴ってのはどこに買いに行くんだよ。」 「せっかく久しぶりの出かけなんだから、ちょっとぐらい思考させろよな。お前といるんだし、それぐらい。ああ、靴は普通にDEF

          ぬぎっぱなしの色。3

          あさひがのぼるまえに。3

          結局仕事が終わったのは23時。恵比寿から最寄りの横浜までは電車で1時間ぐらいかかるから、帰りの電車の中でも色々と考えてしまう。もう少しだけ自分と出会うのが早かったら、なんてことを考えてしまうが、無理もない。 澤田みのり。今更愛さないなんて無理なぐらい、自分には欠かせない存在であるが故に、帰りの罪悪感も重厚にのしかかってくる。みのりと出会ったのは大学一年生の時の選択授業。やっぱり何度見ても可愛いから仕方ない。初めて勇気を出して話しかけたのを今でも覚えている。楽観的で天真爛漫な

          あさひがのぼるまえに。3

          ぬぎっぱなしの色。2

          旅は好きだ。春の空に匂いがするとはこういうことで、学校から出た時の光はまるで日本料理に出てくる伊勢海老みたいな感じだと思う。夜空の顔は狭いけれど、信じられないぐらい暗い夜も待たないことは確かだ。 「お、田中じゃん。」 「ゲッ。」 「ちょうど良かった、今日さ、新歓のコンパ一年生のために昼からやらなきゃ行けなくてさ、ちょっと人足りないからきてくんね?ほら、例のめっちゃくちゃ可愛い一年生も来るらしいからさ。」 「無理無理。もう一生のお願いならこの前聞いただろ。俺はこのあと予

          ぬぎっぱなしの色。2

          ぬぎっぱなしの色。1

          笑い合っているだけでも幸せだったんだろうか。俺たちはなんで二人でこんなところに来てしまったのだろう。どうして君のことを思うと唇がなんだか暑くなるんだろう。峠に立つ二人のことを、猫が泣いて見ている気がした。 「おい、おい、おい!!!」 「あ、夢か。」 「なんだよ、また変な夢見てたのかよ。もう8時20分だぞ。お前学校9時からだろ。間に合うのかよ。」 「余裕余裕、パジャマで行けばいいし。一限だけだし。」 「ほんとテキトーだな。まあいいけど。俺はもう行くわ。今日こそは新品の

          ぬぎっぱなしの色。1

          あさひがのぼるまえに。2

          「あのさ〜、あんまり変なことしないでもらえるかな?そうやっていつもちんたらしてるから、彼女さんに愛想つかされんじゃないの、全く。」 「すみません、次回からは気をつけます。あの、来週の花園ビギン様との商談資料なのですが、こちらも間に合っていなくて、、、。」 「それ、今日までに絶対終わらせてよ、私だって上に挟まれてんだから、気持ちぐらいわかってよね。早めにやらなかったあなたが悪いんでしょ。あーあ、今日も残業確定ね、可哀想に。」 俺が働いていたのはアワーサイドという人材系の会

          あさひがのぼるまえに。2

          あさひがのほるまえに。1

          「これは桜なのかな。」 君がぼやっとつぶやいた事を思い出す。運命とは刹那的で辛辣でいつもいつも僕たちを苦しめる。嗚呼、なんて美しいと思って見惚れていると、君がこっちを向いてこう言った。 「そう言えば、いつ終わんの、仕事。いつ辞めんの、仕事。」 僕は新卒のサラリーマン、いつの間にか就職の時期が来て仕方なく入った会社がもうそろそろ潰れそうなので、彼女からは退職した方がいいのではないかと言われている。 一流大学に入ったはいいものの、なんだかんだでサークルとか恋愛とかしていた

          あさひがのほるまえに。1

          一寸の蜂。

          こんなに小さなところから世界を変えられるなんて思ってもいなかった。自分としては大都会に来たつもりだが、世の中はこんなにも小さいものかと絶望すると共に、今日もまた悪戯のように日が昇る。洗面器の埃は溜まりに溜まって、ふっと息を吐けば散ってしまいそうな勢いだが、そこに住んでいる僕はこのビル群よりも地に足ついて人生を生きている。そういうば、大都会は広いって言っていたのはどこの誰だっけか。

          ツネヒゴロ。

          あさやけがかおる ひざしがまぶしい まどのそとはあかるいままだ

          ツネヒゴロ。

          夢とゆめ。

          信じられないと思うが、こう見えて僕は自由人だ。信じられないと思うが、僕はこう見えて何も考えていない。そう、人生とは成り行きだと思っているので、結局はどうにかなると思っている。見上げた空が綺麗なら足を止めて感動するし、野に咲く花が綺麗なら乗ろうとしていた電車すら見逃して集合に遅刻する。そんな行き当たりばったりの人生が僕は大好きだし、なんだかゆったりしていて気持ちがいいんだ。高架橋を抜けたら一面に銀世界が広がっていたことがある。

          15年越しの乾杯を願って。

          桜舞う季節にいつも思い出すことがあるとすれば、先生のことである。25歳になった今でも忘れられない先生というのは、僕の中にもあって、冬の積雪をも暖めてくれるような思い出が蒸し返す日が、毎年来るものである。それくらい、熱い熱い先生であった。ふと春の空を眺めて、東京の狭い窓から顔を出すと、その先生の明るい笑顔が見えてくるのは、気のせいだろうか。 僕としてはもう随分前の話である。学校生活がかなり憂鬱になってきて、もう居なくなりたいと思っていた小学校3年生のときに、あの先生が僕の担任

          15年越しの乾杯を願って。

          拉麺と桜。

          一風変わった風合いの席には、枯山水の浴衣を着た女性が座っている。さぞ美しいなと眺めていると、そこに熱々の拉麺が運ばれてくる。これがギャップかと思いながら、テレビの野球中継を見ながら感心していると、店主の親父さんはこう続けた。 「お前もいつか、先生になるときが来るだろうよ。そんなときはお前、ちゃんとそいつのことを見てやれよ。お前が教えるのなんて100年早いと思え。むしろ教わるぐらいの覚悟で向き合えよ。」