チビチビのねじねじ

お話を作っていきたいと思っています。 ご笑覧頂ければ、幸いです。

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夜明け/夕暮れ

冬。夜明けでも、月がくっきりとしている季節。ホテルの窓から見える西の月は、濃紺の空に白く浮かんでいる。朝の気配はあるが、まだ空の色は、夜の名残をとどめている。 俺は髪を手で梳きながら、ベッドに座る。疲れすぎると、空っぽになるものだ。心も体も。何も俺を捉えることはできない。 俺は、成功したミュージシャンだ。大きな箱をいっぱいにし、たくさんの目と歓声を独り占めし、音で人を虜にしてきた。それが、目的であったはずなのに。 今は、全ての熱を失ってしまっている。今、動いているのは惰

    • 万年眠い

      いつも 頭に霞がかかる 長く 深く 眠ることができなくなって どれくらい? 老化現象 眠るにも 気力と体力がいる できないことが 増えていく プライドだけが 高くなる つまらない つまらない なんか いつも すっきりしない でも 不機嫌や不満を 顔に貼り付けていたくはない だって 若かりし頃 そんな大人がいやだったもの ネンコウジョレツ? ネンチョウシャヲウヤマエ? それは 自然に生まれるものさ むりくりな強制は 所詮 歪な連鎖を生むだ

      • スイマー

         別に泳ぐのが得意なわけではない。運動神経がいいわけでもない。もちろん元水泳部なわけじゃない。  それでも無性に泳ぎたくなることがある。たくさん泳げるわけでも速く泳げるわけでもないのに。  プールサイドに立つ。塩素のにおいと水音が響く。シャワーを浴びて軽くストレッチをする。  水の中に入る。最初はひやっとするが、泳ぎ始めると馴染んでくる。  ひと蹴り。ぐんと前に進む。最初の50メートルぐらいは少し辛い。来るんじゃなかったと少し後悔するぐらい。  けれど、それを超えて

        • 葉桜

           桜が散る頃、一瞬寒くなる。雨が降り、風が吹く。春の嵐。本格的な春が来る直前の揺り戻し。季節の脱皮の痛みなのかもしれない。  昔の話。私は家を出た。ちょうど桜の散る頃だった。金魚鉢のように鳥籠のように感じていた家。父の命令。母の干渉。息苦しかった。自由になりたかった。私はスーツケース一つだけを持って家を出た。振り返りもしなかった。  今なら父や母の気持ちもわかる。拙い私が心配だったのだろう。子どもに傷ついて欲しくなかったのだろう。  それでも。  私は家を出たことを後

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          桜の頃

           はらはら散る桜の花びら。私の意識は朦朧としている。現世か幻かわからない。もう私の命は風前の灯。この時期で良かった。かの人に一目会ってこの世を去りたいもの。何もなさず、何も残さなかった私の唯一の執着。  かの人に会ったのは、物心ついた頃だった。私の家には桜の木があった。私は、その下で桜の花びらを集めていた。桜の毛氈。花びらは柔らかく、淡雪のよう。夢中になって拾っていた。さあっと吹く風。舞い上がる桜の花びら。  気がつくとかの人が立っていた。  長い絹糸のような髪。涼しげ

          引き金を引く

          いらいらする 頭にくる 湧き上がるフラストレーション 立ち上がるイリテーション ぶつける者を探す ぶつける物を探す 自分より弱く 自分に害を及ぼさない 羊を 兎を 物色する 壁に叩きつける快楽 足で踏みにじる快楽 自分の方が上 自分の力の誇示 一瞬 ボルテージが上がり 一瞬 気持ちよさが巡る けれど それは すぐになくなってしまう 暴力のジャンキー 権力のジャンキー あの怯えた目 あの震える手 引き金を引く時の 相手を思い通りにできるという陶

          夜が明けるような 目が覚めるような

           もう3月も半ばというのに、寒さがなかなかゆるまない。  ダウンコートはまだ着なければならないのだろうか?くすんだ空はまだ続くのだろうか?冷たい風はまだ吹き荒ぶのだろうか?  何もかもがうまくいかない。静電気でドアノブが帯電して痛い。唇はひび割れ、手はかさかさ。独り身の不安が我が身を苛み、人生は停滞中。なんの気力もわかないし、頑張ることは大嫌い。仕事は生きるために何とかしがみついているが、やりたいわけでもない。スキルも熱も希望もない。展望も未来もない。  灰色の世界。冬

          夜が明けるような 目が覚めるような

          こんなに寒い夜の果て

           冷たい風が吹き荒ぶ2月の夜。本当に春が来るのか疑いたくなる。毎年、この時期になると浮かぶ疑念。(とはいえ、いつのまにか蕾がほころび春になっているのだが。季節の不思議だ。)  風の音が窓を叩く。冬将軍の最後のあがきだろうか。春の女神との最終決戦。  愛しい人と抱き合うための夜だ。ソファやベッドで転がりあって、野生のにおいを撒き散らす。  くすくす笑いや忍び笑い。潮の満ち引きを感じて体の伸び縮みを感じる夜。甘くて苦い、奇妙で滑稽な演舞。  それが一方的なものではなくて双

          こんなに寒い夜の果て

          灰色の街

           あの人が住む街に降り立つ。2月の風景は灰色だ。空も地面も光も無彩色。着膨れした雀がちょんちょん跳ねるだけ。雀すら灰色がかっている。  冷たい風が吹く。私はマフラーを巻き直して顔を半分隠す。ここは海のある街。海が見える遊歩道を歩く。海もやっぱり灰色。けれど2月の海は灰色であっても底には微かな光を宿す。春の兆しは密やかに隠れている。  見上げれば灰色の空に白い影。かもめが飛んでいる。潮の香りがする。懐かしく思うのはなぜなのだろう。  どんなに世界や自分が灰色でも、彩りやき

          signature

          私の体は私のもの 私の心は私のもの それなのに 消費されている気がする 値踏みされている気がする ラベルを貼られ 競売にかけられ 売れ残り セール品として並べられたが それでも 売れ残った 不要物ではあるが 何か少しでも役に立たないか? このコスパとタイパの世界では 要らない 私はものではないはずなのに 名前すら呼ばれない …名前はある だが それを形にすることはない

          金魚鉢とウルフムーン

          大勢の中で感じる孤独 心が引き裂かれそうになった 思春期 トゲトゲで 未熟で 何者でもなく 限りない可能性と 果てのない焦燥感を 抱いていたあの頃 金魚鉢が全てで ひらめく鮮やかな金魚たち の中で 黒い鮒だったから 隅にいたの それなのに 金魚たちは許してくれなかった つつき 追いかけ 鱗を剥ぎ取った 見える血 見えない血 たくさん流した ゆらめく水 底から眺めた 金魚鉢からさす光 大きくなって 金魚鉢から飛び出して うねる川に身を委ねた あれ

          金魚鉢とウルフムーン

          寒い夜の話

           強い強い風の音が聞こえる。薄暗い部屋。アラジンヒーターの赤い灯。僕とみぞれはソファで2人ブランケットにくるまっている。2人の体温、2人の呼吸。世界には僕たちしかいないような錯覚をおこす。  そうだったらいいのに。  世界はあまりにも無情で残酷すぎる。  頑張っても頑張っても報われないような、厚くて硬い壁を素手で叩いているような。  手が裂けて血が滲んでいるのに、誰も気が付かない。自分でさえも。  そんなことを僕が考えていたら、みぞれが身じろぎをした。僕はみぞれを抱

          ベーってしちゃう

           なんか知らないけど、よく言われる。  「あの子、やばくない?」  やばくないって、どっちのほうよ笑  あたしはあたしで楽しくやってるから、大きなお世話。  知り合いとか知り合いとか知り合いとか笑  「目立つのイヤ」 とか  「周りの空気よまないと」 とか  めっちゃしんどそうでさ。大変そうだなと思う。  や、別にあたし特別目立ちたいわけでも個性的になりたいわけでもない。  ただあたしはあたしでありたいだけ。  好きなことしたいし、やりたいことやりたい

          ベーってしちゃう

          静かに静かにはらはらと

          もう落ち葉の季節は終わった むき出しのグレーの骨格が並ぶ 雨が降る 雨が降る 風が吹く 風が吹く 冬特有の雨 きっと明日は寒くなる 雨のぱらぱら 風のひゅうひゅう それだけが聞こえる夜 ひとりで うずくまって 過ごす夜 雨風しのげるだけでも よいではないか どこかで 誰かが 無情の風雨に さらされている 孤独と危険 どちらがいいの? 意味のない問い 馬鹿げた憐憫 雨の音 風の音 耳をすませば はらはらと 静かに 静かに はらはらと 落ちる夜

          静かに静かにはらはらと

          不夜城

          真夜中のファミレス。ほっといてくれるのに、一人ではない。煌々と照らしているのに、うらさびしい。安っぽいビニール椅子。薄汚れた窓。  俺は、一人、コーヒーとは名ばかりの、黒い液体を一口飲む。  フロアには、カップルもグループも、俺と同じような、一人でいるのも、いる。  深刻そうに話しているのも、楽しげに話しているのも、スマホでゲームしているのも、PCのキーボードを叩いているのも、いる。  思い思いに過ごし、人生の一瞬が交差している。夜の吹き溜り。  向かい側に座る若い

          ふわふわ

          ゆらゆら ふわふわ していたい ずっとずっと 軽やかに 緩やかに それは 地に足がついていなくて 不安定 ゆらいで そよいで もしかしたら 墜落するかもしれない それでも ゆらゆら ふわふわ 浮かんでいたい 現実の地面から ほんの3センチ ゆらゆら ふわふわ