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コンビニエンス博打

いつもはバタつきなかなか帰れない金曜日。今日は電話も少なくスムーズに会社を出た。小腹が減って駅前のファミマに立ち寄る。おにぎり100円セールの魔力はすごい。おまけに習慣となったファミチキをお願いしてしまう。

今日の店員さんは玉山鉄二から出汁を取ったようなイケメン。そういえば今朝も彼がいた。かなりの労働時間だろうに。深夜番の背の低い色白ボーイにでもバックれられたに違いない。それでも不憫な店長の声はやけに爽やかで、いつでも少女マンガモードに入れそうだ。決してこのシチュエーションがそうはさせてはくれないけれど。

通勤ラッシュで汚れても良いコートと、数年使い倒したマフラー。鞄は持っていない。『クイックペイで』と差し出したスマホを見て、少し目を見開いた様に見えた。マスクが邪魔をして声が通らなかったらしい。もう一度、次は少し高めの声で伝える。ようやく聞き取れたようで、小さな機械から馬鹿げた電子音が鳴った。

とても冷えた指先でパッケージを開ける。ねぎとろのワサビ、少し入れすぎなんじゃないか。むせて僅かに視界が曇る。最後の一口を放り込み、マスクの鼻のところをギュムっと摘み整えた。

引っ越してまだ日は浅い。慣れてきたホームで電車を待つ。やけに逆側のホームにばかり電車が止まる気がするが、それは気のせいだ。前の家に住んでいた時だって、同じように思っていたのだから。だから引っ越しをしたんじゃないか。

監視カメラすらなさそうな駅で、素早くキリトリ線を開く。ムチっと噛みしめると溢れる肉汁を、今日は感じられなかった。どれだけ便利になっても、この博打感はまだ味わえる。ウマイかマズイか口に入れるまで分からないのは、運試しのようで少し楽しみだ。

いつもウマイウマイと食べている人間は、実は強運の持ち主なんじゃないか。そんなことを考え、電車に乗り込む。

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