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東京。女。エッセイ。短編小説。戯言。

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最近の記事

行く手を遮るものは人

レターパックを買いに行かなくては。 家を出て、一つ目の角を曲がると、コンビニがある。 今日はどんより暑い。ぐしゃぐしゃに纏めた髪の毛の隙間から、じわりじわりと汗が絞りでる。首の周りの汗をさりげなく指でなぞる。 汗は止まることを知らない。 額の汗はそのままに、コンビニへ入る。 レジにいる店員さんは汗とは無縁のさらさらで艶やかな髪の毛と、陶器の様にひんやりとした暑さも柔らぐ美しさを兼ね備えた青年だった。 私は自分を恥じた。 女でありながら、髪もぐしゃぐしゃで、顔中が

    • ママはかいぞく

      仕事へ向かう。 電車に乗った瞬間に気がつく。 いつものスーツのおじさんも、鞄がパンパンに膨れ上がった丸坊主の少年も、サラサラの髪をなびかせた頭からつま先までパーフェクトなお姉さんも今日はいない。 今日は木曜なのに、休日だ。 私は休日に出勤をする。 ガラガラと空いた車内の真ん中に堂々と座る。いつものちゃんとした身なりの人達がいないだけで、少しだけちゃんとした人達の中に溶け込めた様で心置きなく居座る事が出来た。 一つ駅が過ぎ、2人の親子が私の目の前に座った。 大きな

      • 芸術の形

        この日の朝は、オラファー・エリアソン「ときに川は橋となる」を見に行った。 雨のおかげで人はとても少なく、急ぐ事もなく焦らされる事もなく悠々と作品を堪能することが出来た。 自らが動いて感じる作品が多く難しい言葉の説明の意味を深く深く考えて解明していく時間が、一歩踏みだした先にその答えはすんなりと身体に浸透した。 自然が生み出す芸術は、そこにある物はずっと同じなのに一瞬も同じ形ではいられなかった。 水と光と影と振動。芸術は止まらない事を知った。 この日の次の目的。「盗め

        • 私のまいばすけっと

          冷蔵庫のトマトジュースがなくなってしまった。 一昨日の夜から、あと少しでなくなりそうなトマトジュースをちびちびと往生際悪く飲んでいた。 最後の一滴を飲み干した私は、まいばすけっとへ行くことを決めた。 私の家から一番近くにあるスーパーは「まいばすけっと」 17時を過ぎると、店内はどこもかしこも行列が出来る。 私は前回、ここの「まいばすけっと」で大失態をおかしてしまった。 セルフレジの列に並び、私の番が呼ばれ、その時私は10kgのお米を抱えていた。バーコードを通し、結

        行く手を遮るものは人

          笛とハーモニカと高円寺

          今夜は早々と布団に入った。 エアコンはまだ衣替え中の為、窓を少し開けて目を閉じた。 5分、10分、30分と時間が過ぎる。疲れているはずなのに生活の様々な音が気になって眠りきれないでいた。 1時間経っても同じだったら無理に眠ることは止めようと決めた。 眠れない時は無理に眠る必要はない。次の日の朝、寝不足で後悔する朝になろうとも眠るという義務をあの長い暗闇を彷徨う苦痛と共に背負う夜より限りあるこの時間を自分の為に有意義に使う贅沢な夜も必要だと思う。 1時間後、私は暗闇か

          笛とハーモニカと高円寺

          今日の占い

          今日は最悪な一日になるはずだった。 今日はいつもより10分遅く起きてしまった。 いつもの電車には間に合わない。 天気予報では今日は真夏のような一日になると言っていた。ということは日差しを全身で浴び急ぎ足で駅に向かうから、暑さは倍増しマスクの中は汗まみれ。 汗まみれのまま電車へ乗り込み、汗をかいている事がバレないように流れる汗は私のものではないかのように窓に映る遠くの新宿を見つめクールに装う。 今日出勤の上司は無口で、仕事が嫌いで、いつも何かをしているふりをしている。

          今日の占い

          窓際にて

          今、私は二階の喫茶店の窓際にいる。 喫茶店、図書館、眼科の待合室、飛行機、家のリビング。 わりとどんな場所にいても窓際に座りがちである。まぁきっと大体の人がそうであろうが。 二階の席の全部の窓が開いていた。 風が時折り、流暢に通り過ぎ、陽もだんだんと落ちていき、いい時間が流れていた。 風の運びと同じく、鳥も運ばれてきた。 1羽のグレーの鳩が左端から順々に窓際を器用に歩き始めた。 『嗚呼、お願いですから私の前では立ち止まらないで下さい。そして、私の窓へは入って来な

          窓際にて

          勘違いの誕生日

          身に覚えのないインターホンが鳴った。 身に覚えのない荷物が届いた。 差出人は身に覚えのある友人だった。 商品名には衣類と記載されていた。衣類なんて送るようなタイプじゃないし、重みのある大きな箱だし、指定日は5月30日で何の思い入れもない日だし、送り先を間違えてたのかもしれないと思った。 念のためにと箱を開けてみることにした。 元の通りに戻せるようテープをゆっくり剥がしテープの跡が残らない様に気を遣った。リボンも結び目がズレない様にリボンの形が崩れない様に箱を何度も回

          勘違いの誕生日

          羊たちの沈黙

          ずっと暗くて、気持ち悪くて、怖くて、私が見る映画ではないと思っていた。 朝起きて倦怠感しか生まれないような後味の悪い夢のせいで、カーテンも開ける気になれず、トイレに蹲り余韻に浸る。 せっかくの土曜日だし、カーテンから突き抜ける位に自慢げな太陽も今日はいる。早くここから抜け出さなくてはと、ボサボサの髪のままTSUTAYAへ行った。 部屋から出ても、余韻は消えず、ポップでキャッチーな映画はとても見る気にはなれなかった。 黄色い蝶が目に留まり、きっとこれも何かのメッセージだ

          羊たちの沈黙

          METROCK

          METROCKの11時間生放送を見た。 昨日の11時間をMETROCKに費やした。携帯を片手に握りしめ、お米を研いだり、鮭を焼いたり、お皿を洗ったり、歯磨きをした。 11時間もの間、携帯電話を持っていると窓の外の流れが止まっている様で少しだけ不安になる度に少しだけ窓を開けて生活の音を集めた。 私はもともとフェスから出る汗が苦手で、でも音楽は好きで、ライブも好きで、青空も好きだから、毎年9月半ばに糸島で行われるフェスにだけは行っている。暑すぎず、大きすぎず、多すぎず、私に

          飽きる5月

          夜更かしが続いた朝の頭痛は、後悔という病。 ベランダから差し込む太陽の一直線も真新しい酸素も私にはもったいない位の清純さで近寄ってくる。 放っておいてくれと言わんばかりに襲ってくる頭痛は私から全ての活力を奪っていく。 白いものは見たくない。 私はいつもは飲めないコーヒーを飲む。 黒い色は落ち着く。このあと味の悪い苦味も私を懺悔の道へと導いてくれる。 最近はこんな朝を何度か迎えている。 5月は毎年すごい速さで過ぎ去っていくのに、今年の5月は何度カレンダーを見てもま

          飽きる5月

          私と鴨と古墳

          人の声や人の熱から離れてみたくなり家を出た。 家から続く真っ直ぐな道を歩き出す。 前から人が来れば曲がり、また人が来れば曲がりと人がいない道を探しては歩き続けた。 辿り着いた先は等々力渓谷だった。 等々力渓谷には清々しいひんやりとした風が舞っていた。 まさに追い求めていた理想の場所。 この場所に辿り着けた事があまりに嬉しくなったせいか体中のエネルギーを放出したくなり、私は声にして放った。 見渡す限りに広がった木々たちに感謝を述べる様に出た私の声は、自分でも驚くほど

          私と鴨と古墳

          スキャンダル

          毎日いろいろなニュースを目にする。 大きなニュースがない日は、穏やかそうな、小さなニュースを少しずつ。 大きなニュースがあった日は、刺激的に、より一層大きく延々と。 テレビで見るあの人は、私の事を知らない。 それと同時に、私もあの人の事をテレビ越しでしか知らない。 本当の声も、感情も触れる事は出来ない。 誰かと恋に落ちることも許されなかったり、目の当たりにした世界の事をありのままに伝えただけなのに批判されたり、その人の一挙手一投足に小さな針が落とされていく。 自

          スキャンダル

          化粧

          化粧なんてどうでもいいと思ってきたけれど せめて今夜だけでもきれいになりたい 中島みゆきの「化粧」という曲。 今朝起きて久しぶりに化粧をしていたら、ふとこの曲が浮かんできた。 久しぶりにマスカラをして、睫毛をビューラーでカールして、ファンデーションを塗り込む。 これで完成。 もともと化粧が得意ではない私の唯一の化粧。マスカラとビューラーだけでも、まだ眠りから醒めない中途半端な半開きな顔つきを、きりりと活気ある私にしてくれる。 化粧は苦手だけど、化粧品や人が化粧を

          バスタイム

          気がつくと、お風呂に入る時間が分からなくなっていた。 いつもの日常では、家に帰り着いてすぐにお風呂に入るのが日課だった。 生活の中でお風呂の時間はあまり好きではない。時間も空間も温度も支配された上に、お風呂を出たあとも体を拭いたり髪の毛を乾かしたりしなければならない。いつかやらなきゃいけない事なら、なるべく早めに終わらせておこうと帰宅と同時にお風呂に入る。 そんな考えるまでもない位に思っていたお風呂の時間が今では分からなくなっていた。 家で一日を過ごしていると、汚れる

          バスタイム

          余計なお世話だよ

          仕事へ行く 駅へ向かう 駅の前のパチンコ屋 パチンコ屋に並ぶ老婆 パチンコ屋の前を通ると必ず覗いてしまう。覗く先にはたくさんの高齢者が横並びに座ってパチンコを夢中でしている。 心配になるほど高齢者で埋め尽くされた店内、見事なまでの密集、密接、密閉。 死にたいのかな?そんな事を思った。 このパチンコ屋の前を通る度に考える。 コロナに感染し重症化して死ぬ事が最悪な事なんかじゃなくて、今をただただ生きている事が最悪な事なのかもしれないと。 生きる事が正解だとは限ら

          余計なお世話だよ