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折り畳み傘を持つ大人

※現在ブラック企業に勤めている方は、
心身ともに影響を及ぼす可能性があります。
読むのは自己責任でお願いします。

日々の生活、労働の中で、
積み重なっていた不安やストレスが
ある日一瞬で糸が切れて弾け飛んだ。

自分の中のキャパを完全に超えた。

地雷をずっと踏まれた状態で放置されて、
時間が経った後で急に足を離されたような、

ああ、完全に終わった。

自分の中で作り上げていた自分が、
他人の手によってあっさりと壊された。

あーあ、死んじゃったよ。

もうこうなったら頑張れないよ
こんな日々、こんな労働はもう続けられない。

仕事に対しては真面目に、真っ当に
我慢強く耐え抜いて、生きて頑張ってきた。

「頑張った」と
人に胸を張って言えるくらいには頑張った。

でも、もうとっくに限界は超えていて
明日のことを考える余裕すら残っていなかった。
今すぐに全部放り出して、
このままやめちゃおうかと思った。

でも、自分の中で唯一残っているプライドが、
肩を振るわせながら今にも折れそうな腕で
弱々しくも必死にしがみついてきた。

その様子があまりにも哀れで、
せめてけじめはつけて辞めようと思った。

後日、上司に会社を辞めることを伝えた。

「すぐに時間を作ってほしい」と
上司には予め伝えておいていたので、
きっと上司も覚悟を決めてきたのだろう。

無駄に広い店内のエクセルシオールで
コーヒーを一口飲んだ後、

「会社を辞めます」

と、上司に伝えたら

「うん。わかった」と
随分あっさりした返事だった。

その後、辞めたい理由だけを聞かれて
それ以上は何も言われず、何も求められなかった。

正直肩透かしだった。

なんだよそれ

どうせ色んな言い訳をつけて色んな手段で
絶対に私を引き止めるだろうと思っていた。

なのに、こんなにあっさりと受け入れられると、

前日までに私が用意していた
原稿用紙3枚分くらいの理由が全部無駄になるじゃないか

まぁ、でもいいか

辞めれるし

え、会社辞めれるじゃん。

うわーーーー!!会社辞めたーーー!!!

って、外面は上司の話を聞いてるフリしながら、
自分の中の私は両手をあげてはしゃいでいた。

話す前は眉間に皺を寄せていたのに、
最後にはニコニコの笑顔を抑えられなかった。

嬉しい、嬉しすぎる。

度重なる疲労であんなに重かった体が、
帰り際には信じられないくらい軽かった。

外に出たら、今にも雨が降り出しそうな天気が、
嘘みたいに気持ちよくて清々しく思えた。

上司と別れた後、帰りの電車の中で
見ず知らずの他人に心配されるくらい泣いた。

地獄から解放された嬉しさと、
今までの苦労がすべて込み上げてきて、
さっきまで弱々しく私にしがみついていた 
自分自身に優しく抱きかかえられたようだった。

電車を降りたら
外はどしゃ降りの雨が降っていた。

傘は持ってない。

きっと誰もが不快に思うくらい

激しく強い雨が降っていたけど、
なぜかそんなに嫌な気がしなかった。

意気込んでフードを深く被って、
駆け足で家まで帰った。

こんな時、”できる大人”なら
必ず小さな折り畳み傘を持っている。

私は持っていないから

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