治験について

割引あり

入院と聞くと皆さんは何を思い浮かべるだろうか。怪我、病気、あるいは検査入院、様々な理由で病院で宿泊することを人々は入院と呼ぶ。その中でも私の場合は相当に特殊なケースでの入院となるだろう。円グラフだったら灰色を割り当てられ、その他の称号で表示されるはずだ。私は7月の後半から、入院治験を受けていたのである。

治験という言葉を、皆様そもそもご存知なのだろうか。治験というのは、日本国内で承認されていない未認可の薬物を、動物実験だけでは満足できなくなった製薬会社が、人間の身体に投与してその反応を見るという、科学者のエゴが集約された臨床試験である。このときの入院患者というか実験体というかモルモットというか被験者というか人柱の様な方々には、負担軽減費として一定の金額が支払われる。

そう、もうお気づきの方もいるだろう。投資によって251万円を失った私は、そこで日本の医学のより一層の発展を願い、少しでもその進展に寄与するために入院治験に参加することにしたのだ。決して謝礼目当てではない。日本の高度な水準の医療が更に発展すれば、より多くの人間の命を救う事ができる。そのために一躍を買うことができるのであれば、自らの身体を犠牲にすることも吝かではないと思ったのだ。決して謝礼目当てではない。では、ここから先は治験に関して私が実際に得た情報について、トピックごとに紹介していこうと思う。


治験概要

先に、私が今回受けた治験の概要について示しておく。
期間:9泊10日+事後検査1回 事前検査・PCR検査各1日
日程:7/20日から7月29日
人数:20人
性別:男性のみ
年齢:20歳~40歳
場所:東京都内
感情:初めての治験でわくわく。

事前検査

入院治験の場合、事前検査が必須イベントとして開催される。これはいわば予選のようなもので、この検査で最も成績の良かった上位何名かが本選へとエントリーできるのだ。今回の治験の場合、予選にはおおよそ50名程度が参加しており、そこから本選に進めるのは22名である。ここで、最も重要であるのは血液検査の結果であるため、各種数値が適正範囲に収まるようにするため、事前検査前の1週間は野菜を中心とした食生活を送ることがぶなんであろう。もっとも、私はそもそも採食メインの食生活であるが。また、数週間以内に風邪薬などを服薬していると、この段階で弾かれるので注意が必要である。前日に牛丼を食べるような愚者は確実に落ちるので、牛を食べるのなら検査後にするのが良いだろう。

入院前日

多くの治験の場合、入院対象として選ばれても、直前まではその連絡が来ない。長期の入院治験であってもその連絡が来るのは入院2日前から前日である。私の場合前日の夕方に電話にて連絡があった。そこから、夜行バスを取り、10泊分の着替えを用意し、東京へ向かったわけである。とんだハードスケジュールだ。さらに、入院当日にも最終検査があるため、食事や体調にも気を使っておく必要がある。私は前日の晩御飯をコンビニのサラダと塩むすびだけで済まし、東京へと向かった。余談ではあるが、夜行バスの隣の席に座っている、平均と比べるといささかふくよかな男性からちょっと変な匂いがしたのでそこはかとなく不快であった。

入院当日

入院対象者として選ばれたとしても油断してはいけない。当日の血液検査の結果によっては2日前の投薬前に帰宅させられる可能性があるからだ。実際に、私の受けた治験でも、本選参加者は22名だったのに、2日目の投薬を受けられたのは20名である。いつの間にやら2名が脱落していたのである。2日目で帰らされた場合でも、負担軽減費として1万円が貰えるが、それでは交通費で赤字である。入院当日は、心電図、バイタルチェック、尿検査、血液検査を行い、入院中のルールを説明され、軽食(バナナとヨーグルト)および夕食(ビーフシチュー、パン、サラダ)を食べ、就寝した。なお、入院時に持ち物検査があり、飲食物はすべて没収され、スマホなどのカメラレンズはすべて塞がれている。被験者番号が印字されたリストバンドを付けられ、今後は名前ではなく番号で呼ばれることとなる。私の被験者番号はD101であった。なお、入院は1室12名の大部屋である。

一日の流れ(A日程)

入院中には息をつく暇もないほど忙しい日と、比較的のんびりと寝転がる余裕のある日の2パターンがある。今回は前者をA日程、後者をB日程として説明する。A日程は本当に忙しく、起床後はまず、バイタルチェック、尿検査、心電図の測定を行いその後留置針を挿入する。留置針というのは、1日の採決回数が多い日に使う針で、採決の度に針を刺すのは手間が掛かるため、肘と手首の間の血管に、針を刺しっぱなしで固定し、血液の採取を容易にするというものである。留置針が刺してある間は左腕にチクチクとした痛みが慢性的に生じ、特に左手を動かすと痛みが顕著になるため、全員左腕を中途半端に曲げた状態で歩き回り、右手だけで生活するという奇妙な集団が発生するので見応えがある。なお、日程Aの採決回数は1日10回である。

留置針挿入後は奇妙な姿勢で朝食を9時2分に摂り、その後投薬である。今回の治験は飲み薬であり、1回の服薬で10カプセルを服用する必要がある。10カプセルを1分以内に250mlの水とともに飲むように指示されるのでそれに従って薬を摂取する。味はない。服薬後は定期的な採血を受けながら、4時間の姿勢制御がある。姿勢制御中は常に座っておかねばならず、水も飲めない。4時間後からは体勢は自由になるが、定期的に採血があるため基本的にはベッドの上で過ごす。昼食は14時であるが、その後も同様である。夕食は20時8分からであり、夕食後にもう一度服薬がある。その後も定期的な採血があり、留置針は最後の採血時に除去される。この日は留置針があるためシャワーを浴びることはできない。23時20分に消灯である。

一日の流れ(B日程)

基本的にはこのB日程が治験期間の大部分を占める。起床後のバイタルチェック、9時2分の朝食、14時の昼食、20時8分の夕食というスケジュールと、朝食後、夕食後の服薬は変わらないが、1日の採血回数が1回となる。姿勢制御も4時間ではなく30分になる。比較的自由時間が多くなるため、ラウンジスペースで過ごす人も多く出てくる。被検者同士での会話はほとんど見られず、各々PCで作業したり、資格の勉強をしたり、仕事をしたり、絵を描いたりしている方もいた。備え付けのDVDや漫画もあったが、ラインナップが一世代前の物ばかりで、若者には人気のなさそうな棚ではあった。Wi-Fiは飛んでおり、電源が自由に使えるためPCで作業するにはもってこいの環境である。病院から出ることは出来ず、食べ物も完全に管理されている状況ではあるが、娯楽についてはPC1台持ち込めばなんとかなりそうである。

食事

食事は一日三回。完全なる病院食とまではいかないまでも、かなり健康志向である食事が提供される。野菜が多いというよりは、肉も使われているものの味が薄いものが多いといった印象である。ここではベスト3とワースト3を発表したい。

ベスト3 
3位 コッペパンwithピーナッツバター
これは非常に美味しかった。美味しかったのだが、3位にコッペパンがランクインすることの意味を一旦考えて欲しい。

2位 ハヤシライス
レトルトではなく鶏肉もしっかりと入っており、非常に食べ応えがあった。味付けも良し。小学校の給食に出てくればお替りじゃんけんが始まるだろう。

1位 グラタン
今回の治験中に出された料理の中で最も塩っ気が濃かったメニューである。サラダ等も驚くほどの薄味であるため、ほとんどがチーズの味であったとしても、このグラタンが絶品に感じられた。

ワースト3
3位 塩きゅうり
まったく塩気が感じられない。2通りの切り方で刻まれたきゅうりが皿に盛ってあるだけである。本当にきゅうりの味しかしなかった。

2位 絹さやのすまし汁
味はする。なんなら比較的濃い味がする。しかしながらこれは薄めた醤油汁である。関東だけあって出汁の文化がないのかもしれない。

1位 ミートスパゲッティ
みなさんは見たことがあるだろうか、まったく赤みのないミートスパゲッティを。ひき肉が乗っているのにも関わらず、そこに味はなく、素パスタを食べてるのではないかとの錯覚に陥る逸品。

事後検査

治験は入院が終わったら終了ではない。治験後1週間程度で改めて事後検査に来なければならないのだ。この日の検査で何もなければようやく治験終了である。もし、この日の検査で不可解な点があれば、あらためて再検査をする必要がある。非常に厄介なので、事後検査の前も体調に気を遣うようにしよう。なお、治験と治験の間は4か月間開けなければならないため、次の治験を受けるためには、事後検査から4ヵ月経った日程のものに応募する必要がある。連続して受けて、大金を稼ぐことはできないのである。まあ、私は医薬業界のさらなる発展のために治験に参加しているので、大金を稼ぎたい訳ではないが。

お金について

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