出棺のときに流してもらいたい三曲。


【Introduction】


たまに考えるんですよね。
自分が死んだあと、出棺のときにどんな曲を流してもらいたいか。


別に近々くたばる予定も願望もないんですが、一度考え出すとこれがなかなか面白いテーマでして。
なんたって出棺ですよ出棺。葬式のラスト、本当にこれでおさらばという、永遠の別れを告げるクライマックスシーン。

そこで流す曲が、お仕着せのカノンやアヴェマリアで満足できますかって話ですよ。私は満足できません。
なんたって我が人生の総決算、この世で唯一無二の物語の終幕です。映画で言ったらエンドロールじゃないですか。心のこもっていないテンプレ曲でなく、オンリーワンの人生の集大成にふさわしい曲をバシッと決めてこそ、映画の観客――生前懇意にしていた人たちと、なにより自分自身――も物語の余韻にひたれるってもんでしょう。


折しもこういう募集タグが出回ってましたんでね。
いい機会ですし、ちょっと本気で考えてみようと思います。自分だけの出棺曲。


選考基準は二つ。
まず大前提として、人生の幕切れを託せるレベルで自分が入れ込んでいる曲であること。私は一昔前の邦楽ロック、はっきり言うと90年~ゼロ年代のロキノン系が好きなため、この時点で実質縛りプレイです。
その上で、別れを強調する哀歌エレジーであるとか、あるいは残された人たちも前を向いて進めるポジティブさだとか、永訣のシーンにふさわしい曲調やメッセージを有していること。

MP3ウォークマンを逆さにひっくり返しての選考の末、兎にも角にも三曲出揃いました。
どれも世間の流行りからは外れたマイナーソング。だけど私にとっては、人生の幕切れを託すにふさわしい最高のナンバーたち。

この場を借りて紹介します。


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第3位 言葉のすきま/トルネード竜巻



まずはこいつから。トルネード竜巻の代表曲「言葉のすきま」。

このバンド自体知らない人がほとんどでしょうから、一言で説明させてもらいます。キャッチーで激エモな曲を量産しまくったけど世に知られぬまま活動を休止したバンド。以上。

エモいんですよ、とにかく。女性ボーカルの透き通る清涼感といい、アッパーな曲でもどことなく陰を感じさせる音作りといい、心のひだを巧みに的確に震わせてくるバンドなんです。
私、本当は「エモい」という言葉が好きではないんですが、それでもこのバンドに対してだけはエモいと言わざるをえません。聴き手に素敵なセンチメンタリズムをもたらすバンド、それがトルネード竜巻です。

そんな彼女らの代表作であるこの曲ですが、音も去ることながら歌詞がまた素晴らしい。


君が愛をもっと知って 自分を愛せるなら
一人の夜なんて もう怖くないでしょう
夏の終わりを告げて 少し遠い空
過ごした日を胸に このままゆくのでしょう
さよならの声も無くて ただすれ違った
いつまでも君を忘れられないでしょう
この気持ちを言い得る 言葉を言ってくれるのなら
少しくらい遠くたって このままゆくのでしょう
伝えたい事はいつだって 足りない事言うばっかりで
でもそうでしょ? 寂しいのと怖いのの間をちゃんと言おう

伝えたい事がいっぱいで でも言える事は少なくて
でもそうでしょ? せつないのと痛いのの間をちゃんと言おう

それが嬉しいな

爽やかなアップテンポの曲調に乗せて歌われるのは、「ひとりでもだいじょうぶ」という健気な決意を乗せた惜別の意。
そしてサビで歌われるのは、コミュニケーションのむずかしさとその尊さ。平易なことばで切り取られる、繊細微妙なエモーションのありか。

はーたまんねえ。マジエモい。こんな曲を別れの場で流された日には素で泣くわ。むしろ他の奴にも泣いてほしい。だから俺の出棺のときに流したい。


以上、第3位「言葉のすきま/トルネード竜巻」でした。

noteを使う人って、こういうエモいのが好きな人がめちゃめちゃ多いと思うんですよね。
だからこそ、このバンドは是非とも多くのnoterに知ってもらいたいです。ことnoteに限定すれば、95割くらいの人には刺さるから。絶対に。



第2位 深夜高速 / フラワーカンパニーズ



知る人ぞ知る名曲です。知らない人向けに説明すると、大サビで「生きててよかった」と連呼する曲でして。
別に不謹慎ネタのつもりはないんですよ。大マジで考えた結果、こいつは2位なんです。これから理由を説明します。

まず曲調から。イントロで爪弾かれるギターを聴けば、誰もが一発で
「ああ、この曲は重いやつだ。それも泣かせる系の重いやつだ」
「腰を据えて聴かないと身がもたないやつだ」
と、直感レベルで理解します。
その通り、実際重い曲なんですよこいつは。出棺という永遠の別れに使おうってんだから、それくらいのヘヴィさはあって然るべきです。むしろ適材適所の感すらある。

次に歌唱パート。朴訥ぼくとつとした声で歌われる、みっともない生の現実が重い。


青春ごっこを今も 続けながら旅の途中
ヘッドライトの光は 手前しか照らさない
真暗な道を走る 胸を高ぶらせ走る
目的地はないんだ 帰り道も忘れたよ
年をとったらとるだけ 増えていくものは何?
年をとったらとるだけ 透き通る場所はどこ?
十代はいつか終わる 生きていればすぐ終わる
若さはいつも素裸 見苦しい程ひとりぼっち

いつまでも未熟な心と、老いてゆく体のギャップ。
訥々とつとつとした口調で語られるぶん、誰しもが目を背けたい現実がかえって生々しく浮き彫りになる。そうして浮き彫りにされた現実が、聴き手の胸をドスン、ドスンと重苦しく打ち据えてくる。

生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった そんな夜を探してる

生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった そんな夜はどこだ

それでもなお、生きててよかったと言い切りたい。そう言い切れるだけの感動を全身で感じる、そのために生きていたい。

いこうぜ いこうぜ 全開の胸で
いこうぜ いこうぜ 震わせていこうぜ
もっともっと もっともっと見たことない場所へ
ずっとずっと ずっとずっと種をまいていく
全開の胸 全開の声 全開の素手で
感じることだけが全て 感じたことが全て

それまでは、生きることを諦めるつもりは毛頭ない。等身大のみっともないカラダをびりびり震わせて、絶対に感動を見つけてやる。感じとってやる。

生きててよかった 生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった 生きててよかった

フィナーレで繰り返される「生きててよかった」とは、その決意のあらわれ。
そして、自分だけの感動を見つけた者だけが発することのできる、文字通りの「生きててよかった」の叫びです。


生き続けることの辛さを歌うこの歌は、正直聴いててしんどいです。軽いテンションで聴けるもんじゃありません。だけど、生き続けていくための勇気をくれるのは、得てしてこういうしんどい歌です。

嫌でも死生観について考えさせられる葬式・出棺の場にこそ、こういう歌はふさわしいのではないか。
弔問者が故人を悼むのとは別に、未だこの世に生き続ける弔問者に対するエールとして、この世を去る故人がこの歌を贈ってもいいのではないか。

そういう思いから、この歌をランクインさせました。
第2位「深夜高速 / フラワーカンパニーズ」。



第1位 ダニー・ゴー/THEE MICHELLE GUN ELEPHANT


90年代の邦楽ロックシーンを席巻し、今なお多大な影響を与え続けている伝説のロックバンド「THEE MICHELLE GUN ELEPHANT」。彼らの絶頂期に出された4枚目のアルバム「ギヤ・ブルーズ」のラストナンバーです。

ボーカルのチバユウスケは、私がこの世で最も敬愛するアーティストです。
だからといって、それを理由に即1位というわけではありません。あくまで出棺用の曲として、然るべき理由のもと1位に選んでいます。


とりあえず一聴してもらいたいんですが、もういきなり明るいですよね。
イントロのベースラインからして「おっ、なんか始まるぞ」的な匂い。次の瞬間には、ジャキジャキとした音の洪水がバーっと耳になだれ込んでくる。
砂埃と桜吹雪がいっぺんに吹き荒れているような、乱暴な快活さに満ち溢れた演奏。それでいて根明ねあか一辺倒というわけでもない。小指の先ほどしかないけれど、憂いのフレーバーも確かに薫る。

こういう曲、実はエンディングテーマとしてはめちゃめちゃ映えるんですよね。大なり小なりの憂いを含んだアップテンポの曲は、単なるサッドソングよりもはるかに惜別の情を煽り立てるように思います。
単純な話、棺を運び出すときにこの曲が流れる有様を想像したらバチクソカッコいい。これは完全に私の感性でしかありませんが。


さらに重要なのは、チバユウスケの放つ歌。正確にはサビ部分の歌詞。

最近はそうでもないものの、この時期のチバユウスケは難解な歌詞を書くことで有名でした。
ですが、この「ダニー・ゴー」の歌詞は比較的理解しやすいものになっています。チバユウスケにしては珍しいことに、歌詞の中に明確な(≒解釈しやすい)メッセージを込めているんですね。

以下、自分なりの解釈というか、歌詞から感じたニュアンスを書かせてもらいます。


振り返らず 錆びた風は続くだろう

これまでも、これからも。
誰と会っても、誰と別れても。
果てしなく、自分の道は続いている。

ざらつくダニー かき鳴らしていくんだろう

ダニーって誰かって?そりゃ先に逝く俺であり、残されたあんたたちだ。
俺は一足先に行くけど、次の場所でも元気にやっていく。だからあんたらも同じように、そこで元気にやっていてくれ。

ダニー・ゴー ダニー・ゴー
ダニー・ゴー ダニー・ゴー


振り返らず 錆びた風は続くだろう
ざらつくダニー かき鳴らしていくんだろう

場所が違うだけだ。お互い、行く先は続いている。

だから、別れの言葉はこの一言で十分だ。


「「振り返るな。進め、ダニー」」






しょせん、歌詞の解釈はその人の勝手です。断片的なイメージで構成されたチバユウスケの歌詞ともなれば、それこそ十人十色の解釈になるでしょう。

それは百も承知のうえで、自分にとってはこの歌のメッセージが、永遠の別れを告げるうえで最高にアツいものに思えた。
それが、この曲を1位に置いた理由です。


以上、第1位「ダニー・ゴー/THEE MICHELLE GUN ELEPHANT」でした。


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【Outroduction】


以上で、自分の出棺のときに流してもらいたい三曲の紹介を終わります。

自分自身のエンディングテーマを考えてみるってのはけっこう面白いし、大事なことだと思うんですよ。自分が今現在どういう人間で、満足に一生を終えるためにどういう人生を送りたいのかという話にもつながってきますんで。
こういうのも「死を想え」メメント・モリって言うんでしょうかね。横文字はよくわかりませんが。

もう少し短くまとめたかったのですが、好きな曲となるとどうしても入れ込んでしまいますね。
毎度の長文につき合わせたことにお詫び申し上げるとともに、おつき合いいただいたことに深く感謝申し上げます。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、また。