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小説 人蟲・新説四谷怪談〜一


2012年9月。


この年はひときわ残暑が厳しい秋であった。



アスファルトから照り返す地熱は、湿気と熱気を伴い、立っているだけでも



全身から汗が吹き出す。





民谷伊一郎は流れ出る汗を何度もハンカチで拭った。




「雨降りそうだな…。」


伊一郎は空を見上げて呟いた。


天気予報では夕刻から雨の予報が出ていた。



もう夕方の18時だというのに熱気は冷めない。


むしろ湿気を伴い、一層、不快感を増大させていた。




伊一郎はネクタイを緩めた。



汗でワイシャツの襟元がぐっしょりと濡れている。




空に流れる黒い雲が次第に上空を覆い尽くすようにひろがりはじめていた。





伊一郎は四ツ谷三丁目から足早に信濃町に向かって歩いていた。





四ツ谷三丁目の交差点から信濃町までは歩けば10分ほどだ。
タクシーを使うほどではない。


伊一郎は歩くことを苦にしないので、ぶらぶらと散歩がてら歩くことを選択した。



伊一郎は180センチを越える長身。


細身で筋肉質の引き締まった身体。長い足はまるでモデルのようだ。


濃紺のスーツをセンスよく着こなし、彫りの深い整った顔立ちにやや色素の薄い茶色い瞳が印象的である。

髪はやや長めで、瞳と同じように、やや茶色がかっており、サイドで軽くウェイブし上品にまとまっている。


世間的には美男子という分類に入るだろう。


大股で歩く姿は背中がピンと張り、一種の気品すら感じさせる。


あえて難点を挙げるとすれば眉間に刻まれた皺が、伊一郎の神経質さを物語っているくらいだろうか。


とはいえ


それも、気になるほどのものではないが。




ふいに



雷鳴が鳴った。






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