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小説 人蟲・新説四谷怪談〜十三


柳沢吉保は江戸城の御用間で瞑目していた。




五代将軍徳川綱吉の側用人として寵愛を受けるこの男は今や幕府の最高権力者といってもいい。



その吉保の手元に一通の書状がある。



その書状には吉良家家臣、伊東忠兵衛とその妹、梅が、婿養子の伊右衛門に斬殺されたと記されていた。



戦乱の世が去って久しい。



平穏な江戸の町で歴とした大名の家臣が斬り殺されるということは一大事件だ。




しかも。




斬り殺された伊東忠兵衛は吉良家の家臣。



その当主は今、江戸で噂でもちきりの赤穂浪士の仇である吉良上野介。


下手に明るみに出るとどのような騒ぎに発展するかわからない。




吉保は呼び鈴を鳴らした。





「目付の多聞を呼べ。」





ほどなくして





目付の多聞伝八が現れた。




「お呼びでございまするか?」



目付とは今でいう警察のことだ。



多聞はいわば警察官僚である。


多聞は官僚にしては現場に精通しており、まさに現場最前線である町奉行との連携もうまくやっている。


その分、融通のきかないところもあり上司とは何かと意見の衝突を起こす側面もある。


吉保のお気に入りというわけではないが、今回のように隠密裏にことを進めなければいけない事態においては情報を下手に湾曲させず報告する多聞は貴重な存在だった。




「伊東忠兵衛の件はその後いかが相成った?」



吉保は多聞に尋ねた。








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