第11回 「最強のはなしかた総論」
いよいよ最終回に入ってきました。
最終回のテーマは「最強のはなしかた総論」です。
ここまで、「再現性」「キャラクタマネジメント」「時間のコントロール」「地頭を鍛える」「イメージ力」「他人の経験を自分のものにする」「表情」「声」というテーマで「最強のはなしかた」について考えてきました。
すべてが必要なスキルですが、これらを完璧にコントロールするためにやらなければならないことがあります。
それは。
「シナリオ」です。
はなす内容=シナリオです。
これをつくりこむことです。
「最強の自己紹介トレーニング」でも書きましたがシナリオをつくることによって再現性は担保されます。
今回はこのシナリオ作成に照準をあわせておはなししたいと思います。
シナリオで重要なのは構成です。
文章の構成といえば「起承転結」が有名ですが、「はなす」という行為においては「起承転結」は少し長いので、「序破急」という三部構成がのぞましいです。
「起承転結」は構成としては理解しやすいのですが「転」の展開が日常のプレゼンテーションやスピーチなどに利用するのはなかなか難しいものです。
「転」は「起承」でつないできた話を「転がす」、つまりいきなり方向転換させるテクニックです。
たしかにうまく機能すると非常に効果的なインパクトを与えることができますが、失敗すると支離滅裂という最悪の結果を生んでしまいます。
それよりももっとシンプルな構成である「序破急」で組み立てると「はなし」の流れは誰でもうまく組み立てられます。
「序破急」はもともと雅楽の構成から生まれてきたものです。
「序」は無拍子かつ低速で演奏され、「破」から拍子が加わり、「急」で加速され、これにて一対の楽曲として構成されるという仕組みです。
これを「はなし」の構成として活用すると、
「序」でまず自分に紹介や今回のはなしの趣旨などを簡単に説明。
「破」で本論を述べる。
「急」で「はなし」を結論づける。要望や要求など相手の反応を呼び込む。
となります。
また、さらにこの「序破急」はそもそも音楽の構成ですから本来は「テンポ」を表しています。
これも参考にすると非常に効果的な「はなし」の演出が可能になります。
「序」はゆっくりと落ち着いて
「破」はテンポよくリズミカルに
「急」は畳み掛けるように
というカタチになります。
ここでポイントは「序」です。
自分の紹介やはなしの趣旨などは「ゆっくり」と。
これが重要なことです。
「つかむ」なんて言葉がある通り、われわれはどうしても「はなし」のスタートから聴衆の心を自分の方に向けてしまいたいと思うものです。
結果、「はなし」の冒頭からテンポを上げて強引にテンションで聴衆を惹き付けようとしてしまいます。
これは非常にまずいやり方です。
非常に著名な方で聴衆が最初からその人を完璧に信頼して受け入れている状態なら、最初からトップギアで畳み掛けるということも可能ではありますが、ほとんどの場合は聴衆が「聞く態勢」にならないうちにテンポを上げてしまうと、かえって聴衆の「聞く気持ち」を離してしまうことになります。
この間違いは結構、研修講師など本来「はなすプロ」の人でも起こしがちです。
最初からテンションを上げてしまうと自分自身が「興奮」してしまって冷静に相手の反応が計れなくなってしまうのです。
それでいて、相手(聴衆)の気持ちが離れていっているのは肌で感じますから、さらにテンパってテンションを上げテンポを上げ、相手との距離はさらに開いていく一方という負のスパイラルに陥ってしまうのです。
雅楽から生まれた「序破急」はまさにこの聴衆の「気持ち」を構成に盛り込んだものなのです。
「序」は聴衆が「聞く態勢」つくるための予備時間なのです。
ですから、「相手に受け入れてもらおう」というのではなく、「相手はこちらのはなしを聞く態勢の準備」だと思って時間配分とペース配分をしなければなりません。
例えば、ワタシの場合は、この時間を「自分の自己紹介」にあてることにしています。
「吉本興業出身で、普段は演出という仕事をしながら、その演出技法を一般に応用して研修講師なんかもやっている・・」なんてはなしをするわけですが。
このとき、なるだけゆっくりはなすように心がけています。
しかも。
自分の自己紹介を聞いてもらおうとは一切思っていません。
一応、「おまえは誰だ?」と思ってる人に基本的な情報を知らせるだけのつもりで話をしています。
極端に言うと「聞いてもらわなくて結構」ぐらいの心持ちです。
ですので、力も込めませんしテンションも低めです。
不思議なもので、ここで力を抜いて時間をたっぷり使うと、自然に相手は「聞く状態」になっていきます。
相手がこちらに反発を持たず、なんとなく視線を向けてくれるようになると、少しテンションとテンポをあげて「本論=破」に入ります。
この「本論=破」の際に必要であれば自己紹介をもう一度織り交ぜます。
そうするとより相手の反応はよくなります。
最初の自己紹介=「序」は原則的に「相手が聞いていない」時間として扱うことがポイントなのです。
いわゆる「捨て」をつくることです。
シナリオ作成で重要なのはこの「捨て」を有効につくることなのです。
たとえば1分30秒のスピーチでも「捨て」をつくることは必要です。
最低でも15秒から20秒ぐらいの「捨て」が必要です。
普段の会話なら「天候のはなし」や「近況のはなし」なんかがそれにあたります。
本論とは関係のないはなしでお互いの「聞く態勢」をつくる仕組みなわけです。
われわれはどうしても「無駄のない」ことに惹かれます。
したがって、シナリオを作成すると「一分の隙のない」「全てが意味のある」ものをつくろうとしてしまいます。
それが一番の間違いなのです。
ここに「最強のはなし」の最大の秘密が隠されているわけです。
シナリオをつくるさい、まず時間配分を決めます。
「序」全体の10〜15%
「破」全体も55〜60%
「急」全体の25〜30%
こんな感じで時間配分を決めてください。
そのうえでシナリオ作成を行います。
「序」は「捨て」でもありますから、あまり意味のない「相手が別に聞いていなくてもいい」というくらいの内容にしてください。テンポもゆっくりですから字数は当然少なくなります。
「破」は「本論」ですから、ここは力を入れる部分です。あまり感情的な表現は用いず、なるだけ「論理的」な組み立ての方がいいでしょう。
「聞く状態」になった聴衆にはなしの道筋を明確にすると、非常に理解が進みます。
テンポは少し早めでテンションも気持ち高めにしましょう。
ここはシナリオを綿密に練る必要があります。何度も推敲して、聴衆が疑問に思うことがないような論理的な構成が必要です。
「急」は「結論」です。「結論」とは聴衆の「感情」を動かすことです。ビジネスの場ならポジティブな行動を相手が起こしてくれることが必要ですし、個人的な場であれば相手が自分の感情に「同意」してくれることが重要です。
そのためにこの「急」ではなるだけ「感情、情感」に訴える言葉でテンションを高く、そして畳み掛けるようなテンポではなすことが必要です。
ここではシナリオはある種適当でも構いません。なんとなくの流れだけでもいいでしょう。
「聴衆の感情を動かす」ことが目的ですから、当然、そのときの聴衆の雰囲気や状態にあわせて自分のはなしかたも変化させる必要があるからです。
一番、技術的に難しいところですが、簡単なテクニックとしては「思い切り身振り手振りを増やす」「擬音を多用する」などがあります。
とにかく聴衆を「動かす」ことが必要です。
「序」と「破」がきちんとせきていればさほど難しいことではありません。
「序」で聞く態勢ができ、「破」ではなしの筋道を理解しているわけですから、流れは完全にあなたに向いています。
あとは思い切りだけです。
このように「序破急」を使いこなせれば、さまざまな場面や時間でも適切に「最強のはなしかた」を行うことができます。
この「序破急」の構成をうまく「演じるため」に「表情」や「声」があり、時間配分をきちんと再現するために「時間のコントロール」があり、聴衆を「動かす」ために「地頭」や「イメージ力」が必要になるわけです。
そして論理的な思考を身につけるために「他人の経験をもの」にする技術があり、なんといっても自分自身を相手に受け入れるために自分自身の「キャラクタマネジメント」が必要だということです。
長きにわたった「最強のはなしかた」ですが、まずその基礎中の基礎は「準備をする」ということに尽きます。
「アドリブではなす」ことに重きを置く人が多いですが、「アドリブ」は再現性が保てないので、重要な場面では使わない方がいいです。
「最強」とは「いついかなるとき」でも「安定」した「パフォーマンス」を引き出すことなのです。
「序破急」ぜひ試してみてくださいませ!
最強のはなしかた(了)
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