夏が苦手だ。
蝉が進行方向の先の電柱に身体をぶつけている様を察知したなら遠回りを余儀なくされる。虫がすべからく苦手とは少し違くて、死の直前まで必死にもがく声や羽音にどうも心がまいるのだ。
近所に伸びる緑道は秋ともなると金木犀の香りにくるまれてどこまでもすくすく歩きたくなるのだが、夏の時期は無数の蝉たちが「生きたい!生きたい!」と魂から叫んでいる気がして耳を思わず塞いで遠ざけてしまう。

僕が心底弱い人間だからだ。今日も最高気温36度の東京で「消えてしまいたい」という自責の念が反響して眩暈さえ覚えるので、症状が悪化する前に可能な限り水風呂に浸かるよう心がけている。

本当なら誰一人もいないプールで下手くそなりのクロールで泳ぎたいのに、現実ではおじさん達でひっきりなしのサウナ施設で記憶の断片を脳内でスクロールしては健康に重たいノイズをゴミ箱に捨てていく。普段であれば長くても1ヶ月程度の出来事を整頓しストレージをわずかばかしあけるのだが、その最中、脳内フォルダの隅っこにかつて燃え殻さんという方から謝られたような気がする、という極小ファイルを見つけた。記憶が随分曖昧なのだが、外気浴後導かれるようにロッカーから携帯を取り出してメールボックスを確認してみた。

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