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余命10分 / 2022年10月12日 — 瀧山。

朝5時。父がボランティアに出かける音で目が覚める。

母のからだに発疹が出た日の朝もそうだった。大きく違うのは、目が覚めたのが実家ではなく山形市内のアパートだということと、もう母がいないということ。苦しむ声さえ聞こえない。

まだ暗い中、顔を洗い歯を磨き、着替えて、車へ乗り込んで、昨日に続き山へ向かった。

山の名前は瀧山(りゅうざん)。たくさんある山の中でここを選んだのは、父と母が暮らす山形市内のアパートと蔵王温泉街を隔てる1300mくらいの山で、車で20分も走らせれば登山口にたどりつけるということと、昨晩父から「若い時に、母と友人たちと一緒に登った山」だと聞いたのも大きい。

登山をはじめてから、300mの伊予ヶ岳(千葉県)、昨日の秋葉山(山形県)は500mと、ずいぶん低い山しか登ってこなかったので、1300mという高さは不安だったけれど、辞める理由にはならなかった。母は途中で諦め、父は仲間と共に登頂したというその山にどうしても登ってみたかった。

コンビニの駐車場で朝ごはんを食べて、登り始めたのは6時。美しい朝焼けの中、ゆっくりと山頂に向かって歩き出す。

往復6時間ほどの大変な登山だったけれど、山頂に近づくに連れて色つく紅葉は美しく、岩壁から見た絶景は、一生忘れないと思う。

何より、ひとりで黙々と山を登っていると、空に近づくからか、母と会話ができているようなそんな気分になれる。

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