差延についての概念

「サ」と発音したわたしの声をわたしが聞く。「子音+母音」で成り立っている単語は「S」という音に遅れて「a」の音が発音される。これ、デリダの差延の概念に似ているのではないか。母音はいつもほんのわずかに遅れてわたしの耳に届く。
母音は内耳にまで侵入する。耳に届けられ、それは郵便空間のように内耳で複数のセリーとリズムとなって衝突をする。ときに「内耳性めまい」が生ずるのだ。「サ」の記号を「サ」の音として認識する脳に一番近い内耳で響く音がめまいを起こす。「内耳性めまい」とは、リズムの衝突によって音が脱臼する。郵便空間での誤配送による「不可能なものの経験」に似ている。
スマホで遠くの人と話しをする時の二人の距離、その遠さは対面でのコミュニケーションに比べて、目、耳、手、口、鼻のリズムの差やリズムの欠落を経験する。対面コニュニケーションの場合、それらの感覚機関にリズムの差を目の前にあなたが「いる」という視覚的な情報によってわたしは強引に調整しようと試みている。ところが、電話での会話の場合、耳だけの情報になってしまい、他の情報は得られない。電話の声は対面よりもより近く、純粋である。その声は内耳に響く、わたしはあなたの亡霊に遭遇するのだ。

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