白井健康

未来短歌会/「オワーズから始まった。」(書肆侃侃房)

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未来短歌会/「オワーズから始まった。」(書肆侃侃房)

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うみを埋める(未來結社誌2024年1月号)

ちちのうぶげがうみを素描する と、しゅうぶんの伸びきったいっぽんのさき/が、エクリチュール しろく椅子まではこばれるひとですから、と 座礁する/すぐにでも離職したかったけれど、わずかな金しか持ち合わせがなかった/よいうみであった。惣菜を小分 けしてタッパーに保存してもらうつもりだ/今日のぶん、明日のぶ んと、減らしては 悲に悲にテクストは蕩けてゆく/米粒とひらかない蕾を並べなおして、取り戻すようにみえた。             どうにも壊れるしかないはじまり に「わたしは」

    • 明けましておめでとうございます。

      能登の震災、明るくなって地震による災害が明らかになるにつれ、街が壊れた映像は心が痛むなぁ。 オレは時々大学の頃の街の風景を思い出すことがある。今思えば、本当に当時は行動範囲が狭かったんだなぁと思う。まぁ金もなかったし、大学の南側なんてほとんど行ったことないし、是政駅を降りてすぐ南側に多摩川があることも最近になって知ったし、記憶は脈絡のないスナップショットのようで、まだ充分に成人になりきれていないオレにとって、当時見た風景のゆらめきがずっと死ぬまで残る。きっと大学卒業以後の自己

      • 〜<非=いま>の侵入(未来結社誌2023.12月号)

        プラスチック片ほろほろと猪鼻おき、の生きてるうちに記号を変え る可わる/とれたてのてにわたる風わかれくぐりぬけて、「けて」 の風、なりきってない/発情期のネコが鳴いていていい草原だから おしひら可ないよう/指でかくはんする牛乳へと眠たさをおくりこ んでは 染めむらが目立つ/後方から頭髪を おし黙るしかない みずのかえしがおそくなる つなぎとめる唇 より細く削るまでも なく 吃音は<原=エクリチュール>のかぜおと まだ終わりませ んから 取り繕うまでもなく逸れてゆく パロールの

        • 代理されるわたくし

          「詩を書く」という所作が現前の再現前化(代理)だとすれば、ことばの再現前化は、わたしの心情の再現前化でもあるはずだ。<意味するもの>と<意味されるもの>の差異の明証性とその結果のなかにわたしを置くこと、すなわち詩(=差異の結果を産出する運動)は、差延の運動でもあり、<代理するわたくし>による<代理されるわたくし>の再現前化、わたくしによるわたくしの対立でもある。ここに、<代理されるわたくし>は、<代理するわたくし>の隠喩だという概念が見出される。 囲まれた部屋にてうおはふた

        うみを埋める(未來結社誌2024年1月号)

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        • 短歌
          49本
        • 詩歌
          56本

        記事

          差延についての概念

          「サ」と発音したわたしの声をわたしが聞く。「子音+母音」で成り立っている単語は「S」という音に遅れて「a」の音が発音される。これ、デリダの差延の概念に似ているのではないか。母音はいつもほんのわずかに遅れてわたしの耳に届く。 母音は内耳にまで侵入する。耳に届けられ、それは郵便空間のように内耳で複数のセリーとリズムとなって衝突をする。ときに「内耳性めまい」が生ずるのだ。「サ」の記号を「サ」の音として認識する脳に一番近い内耳で響く音がめまいを起こす。「内耳性めまい」とは、リズムの衝

          差延についての概念

          決して現在になることのない未来のなかで

          マリのうまはしなやかにみずをはかっては蔓のさきへと羞恥を尖らせ、しろく熟したウリ科の性器が折れ込んでいるのを見出したが、半球の島々へと漕ぎ出すとき波の期待を調律することもなくなり、音叉はつぎつぎに感動を喚び起こす。露を媚びるような朝、うっかりして充血したまま粘膜が甘い動物臭を発散するので、とりの囀りはカーテンそのままに長く風向きが変わるまで競走馬のたてがみよろしく終わりたがらない。自由の選択によって全部から抜き出してきた記憶は、日向へ晒すまえの黒髪の束、他のひとよりも多くの湿

          決して現在になることのない未来のなかで

          ミツバチの眸のなかうたいだすうま

          「対自トハ身体ノ仕上ゲデアル」(『知覚の現象学2』p338)/然シ アルトキハ〈自〉ヲ欠ク/(カラダ)の洞(ウツロ) つうおん装置へと踏み迷う テクストは既に書き込まれ「ボクタチハ、コノ街(コノ詩)ニ住ンデイル」) いっとうにとうよんとう ウマをじじょう(二乗=自浄)しながら 以前にもまして 反復(=詩)はわたしから逃れるための邪(ヨコシマ)なナイフ、「花そう 破投そう 波るかす流」 みずなつへと (唐突に繋げる)「砂嘴(さし) さしあし さしぐみ 差乳 刺し合う」 いまだ実

          ミツバチの眸のなかうたいだすうま

          播種

          かさならない、ひとつの模倣可能態 が、署名であって 反復を繰り返し くびきが揺れる と、うまをめざし  て外出する、うまになることの迂回  「いいえ」から始めるしかないが、  まったきあなたの責任でしかない          あなたのひろがる火がこわい 「はい」と穴のさきで炎を伸ばす  狂わないのは刻みではなくときだ (と、落人の逃げるあしもと、の あかい記号のまま終うことを 行 きつかない思考しろとりは集う 交差点から駅へ向かう夢をみた 屈んだなつに触れさせてみるが し

          ロゴスのそと

          <されるうみ><するうみ>ふたつを皿にのせロゴスのそとへ(ははは還るも) ソシュールによれば、記号の差異は容器(コーラ)の中の無数の風船としてイメージされます。記号の価値は風船の大きさと形、そして隣接する風船の圧力によって決定されます。しかし風船には実体がありません。そしてひとつの風船を外すとその存在はなくなってしまう。風船(=記号)とは一定の場所(コーラ)に与えられる名前なのです。人のいのちもこの風船のようなもの、ひとつの記号(エクリチュール)としてイメージされます。 で

          ロゴスのそと

          はじまらなかった終わりに(未来結社誌2023.11月号)

          濡れたふうけいがいろを増すようもりの石をしずめては クロウリ  道のない水息に馬を追う「つる巻き」という論文のはじめに を四等分八等分と切り分ける 方法の笑み くちびるが音読をする  情念につかえる手段、として回転する記号の図式(シェマ)をえがく 三日月は狭められた窓から わずかな直線の正しさよりもおわりに  眠りにつくもりを犯しながら穴をうめる馬 の、デッサンの続きに あらぬ方へと曲がりたがる 脇から背中へ ひらがなの耳ざわりを  あたしの耳を噛んでって 汚れるわ熱があった

          はじまらなかった終わりに(未来結社誌2023.11月号)

          須臾 (未来結社誌2023.10月号)

          ハルジオンから下顎淋巴踊り子みずまくらへとくちびるの解纜 ほ つけっ放しのデンキュウを消しては須臾 日曜の午後の湿地帯から めまい みずのふざいに数珠はきれた。た。た。た。た。はいけい を いまう えらん(飛躍) ためらうことなく停車ボタンは フランス 海棠に約束した分葱が 雨う みがかれ(身が枯れ)すべりはじめるいし はいつも過ぎる 在りかけの    姉                      のように 脱色するオンナたちひばりのかるさで 録画予約ボタンを押す 乃 簒奪は

          須臾 (未来結社誌2023.10月号)

          芽から切り離す、接ぎ木の例 (未来結社誌2023.9月号)

                あさ カンナの行列におくれそうなひとが輪のなかに 書き込まれる 敷衍と                  ゆめ    前屈みになって通過する 結石と診断されたひとの未明には      地図がなくはだえをよこぎってゆく        かぜに加勢するしかない           タブローに      手を留守にしてちからなく仕方なく止水栓へと         前未来 手を咲かせては しま(いいえ 縞)の記憶 そら(生地)の端の色を伝言しては              

          芽から切り離す、接ぎ木の例 (未来結社誌2023.9月号)

          「な の 内通」 (未来結社誌2023.8月号)

          な のてつづき からつなげる は ひかるをたずさえ は みず えき なのだから なぜ 渡る乃 すくなく 鳴る な を貌じゅう にそめながら  な を塗りかさねる な買った ことにして 息(生き)継ぐ いな 買ったことにされ いのこ る 無(な) をはじめる な に濾過される みずふえのね 背景のくさ を濡らして な  ヲ渡リ終エル 湿った寝具にからだを包み込む 趾間は乾かず までのあいだに もどる/いならぶ

          「な の 内通」 (未来結社誌2023.8月号)

          未来が忘れていく(『Sister On a Water』Vol.5 )

          『Sister On a Water』Vol.5 に寄稿した詩をアップします。 未来が忘れていく 目の前に広がる海はなんの援助も必要としないし、延長体は精神に由来するもの、それを媒介とする結びつきを要求はしない。他方、わたしはといえば、過去の取り巻きの、円錐形の錐に触れつづけることでしか存在しえないのだから  * ミサコちゃんがうたっている うたいつづけている 土間は踏み固められ地球の膝元まで つつましい高さに生き延びようとする こちらはとても 着物を開けてはおかめ人

          未来が忘れていく(『Sister On a Water』Vol.5 )

          詩について思っていること、、、

          石松佳さん、竹中優子さんの詩を読んで、ふと考えたこと、、、、 心の問題を心の言葉で提示してもなかなか理解し難い。心や精神の問題を物質や事象の言葉に置き換えて提出することによって、あるいはテクストからテクストへ飛躍を与えることによって、それらに閉じ込められている心の言葉を、社会機構に従って探ることができるようになる。詩は解答ではなく、問題を読者に提出するアイテムであって、読者は詩を読むことで、いくつかの解答のどれかを選びとるようになる。このことが詩人と読者との永遠な関係をもた

          詩について思っていること、、、

          コワレタスズヲ鳴ラシツヅケル

          未来結社誌(十二月号)に掲載  コワレタスズヲ鳴ラシツヅケル   背鰭のあたりから逃すしくみ 三角に圧縮された気概をときどき放っては街角が暮れてゆく 遠くで点呼の声がするけれど 確かめることもなく生き長らえる 別珍のこすれあう息づかいシンクから海まで途切れることなく 調律された鍵盤なのだから 或いは馬の背中越し取り壊し寸前のビルディング その外延 にこそまどう 肌の うさぎを放つ夏へと小径であったころのくるぶしまでを とおくの(とおのく) ヤカレテワタ詩 空(カラ)ダッタ

          コワレタスズヲ鳴ラシツヅケル