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【掌篇小説】ムロツヨシと在日コリアンの私

【ご注意!!】
このお話は私が見た夢をヒントに小説化した作品です。
また、ツイッターの「書き出しと終わり」メーカーを利用して書いています。
(これ、オチが見つけられなかったときにとても便利です。)

在日韓国人が主人公ですが、
差別目的に書いているものではまったくありませんし、私が在日コリアンというわけではございません。

Wikiなどを参照しつつ製作していますが、もし事実と大幅に異なる表記がありましたら申し訳ございません。

また、「ムロツヨシ」という登場人物に関しては、実際の「ムロツヨシ」さんとはまったくの無関係です。

内容が内容なので、心のコンディションがいまいちの方はお読みにならないことを推奨致します。



ヤスタニアリサさんには「きらりと何かが光った」で始まり、「泣くこともできなくて」がどこかに入って、「この道を信じている」で終わる物語を書いて欲しいです。
#書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/851008

きらりと何かが光った。
それは窓から射す月光を受けて光ったムロツヨシの涙だった。

「酷い。そんなの酷いよ、フェアじゃない」

右腕で溢れる雫をぐいと拭うムロ。意外にも彼は涙もろい。
いいんだよ、もうしょうがない。諦めるしかないんだ。こういうのはもう、しょっちゅうだから。

「韓国人だからなんだって言うんだよ」

先日、私はA社主催の文学賞に小説を応募をした。

テーマは「美しき日本、美しき日本人」というもので原稿用紙200枚ほどの小説を投稿し、1次、2次と順調に審査は進んだ。

ネット上で私のペンネームである「月姫」の文字を確認するたび、私の胸は高鳴った。
最終選考の期間中にA社の文学賞担当を名乗る者から一本の電話連絡があった。

「あなたのお知り合いという方から、あなたが在日韓国人であると弊社に連絡が入ったのですが、これは事実でしょうか」

という内容だった。
事実に間違いなかったため、はいそうです。私は在日コリアンで、本名はパク メイヒだと答えた。
すると担当者は一呼吸おいてから

「パクさん、それでは大変申し訳ないのだけれど、今回は日本人による日本人の文学を募集していますので見送らせて頂きます。送って頂いた小説は返却致しませんのでご了承をお願い致します」

と静かに言った。
募集要項には作者は日本人であることが条件だとは一言も書いてないじゃないですかと返すと、いや、これオフレコでお願いしたいのですが、うちの編集長がものすごい嫌韓で。私はいいと思ったんですよ、あなたの、パクさんの作品は。推したんですけどね、私の力不足で申し訳ないです。それではまたいつか。

そう抑揚のない声で担当者が言う、納得がいきませんと言った私の返答を無視して担当者はぷつりと電話を切った。

こんなことはもうしょっちゅうなんだ。

泣くこともできなくてたださざなみのような怒りが行ったり来たり胸の中を行き来するの。
怒っているはずなのに身体は熱くなくて反対に貧血を起こした時のように血の気が引いていく感じを全身で感じるんだ。

私が生まれたのは日本の産婦人科なのね。
私が育ったのも都内って言ったよね。
私が教育を受けたのは日本の教育機関だし、
私の初恋の相手は日本人だった。
私の好きな食べ物は明太子で、嫌いな食べ物は塩辛で、好きな映画監督は三谷幸喜で、好きなアーティストはミスチルで、
だけど両親が韓国人だから私の国籍は韓国人。

実家では日常的に大きな金だらいでキムチを大量に作るから、 小さい頃友達が私のうちに遊びにきたとき、なんか臭くない?と言われたんだ。

親戚のおばさんたちは水商売の人が多くて、私のうちにしょっちゅう遊びに来るから、中学の頃は彼氏がなんか遊びに行きづらいと言ってた。

大学に入って、成人してるんだし帰化すればいいじゃんって映画サークルの先輩たちに言われたけど、なんか両親を否定するような気がして抵抗があるんだと返したら、なんだよ結局、根っからの韓国人じゃんと言われて、それから自分が韓国人であることは言わないと決めたんだ。

今回の話はね、だいたいチクった子わかるよ。その子は私が小説書いていることも、私のペンネームも知ってる。2次審査通過したことも。「テトラポット」っていう劇団の座長してる。脚本コンテストに毎回応募してるのに一度も1次通過したことがない可哀想な日本人の女の子。

冷めたコーヒーをひとくち飲んでムロツヨシの目を真っ直ぐに見つめた。
彼は私のエピソードを聞くたびにひとつずつ頷いた。まるで目に見えない何かを咀嚼して飲み込むように頷いた。

ムロツヨシは腹を決めたようで、ゆっくりと口を開く。

「俺、復讐してあげるよ。その女も偏見にまみれた出版社もどっちも復讐してあげるね」

ムロツヨシの鼻の下、唇の上にあるホクロが上下する。彼の表情が上気する。暗い部屋のなかでもわかるくらいに彼の体温は上がっている。

いいよ、そんなことしなくていい。
こういうのってどうにもならないから。

そう、私は嘘をつく。

私は生まれた瞬間から国籍というハンデを負っていた。
私の国籍がアメリカ、イギリス、ドイツ、ロシア、といった国なら負わなかったであろう「在日韓国人」という名のハンデだ。

そのかわり、私の周りには私の代わりに都度戦ってくれる男がいた。

小さいころからずっとだ。そういう宿命のもとに生まれたのかもしれない。

私が泣けば、私のかわりに私を冒涜した誰かを額が割れるほどに殴ってくれる男がいた。

私が赤の他人から意味のわからない暴力を振るわれれば、私のかわりに半身不随の鉄拳制裁をしてくれた別の男がいた。

いま、目の前で息荒く、ぎらぎらした目をしているほくろの男もその1人だろう。

「俺、なんでもするから、待っててね。明日には結果出せると思うから」

ムロツヨシは希望に満ち満ちた美しい瞳でにっこり微笑むと、スニーカーに足をつっかけてから玄関のドアを開けて深夜の街へ消えていった。

本日、ニュースで都内で2件の放火事件があったと報道がされた。
1件目はA出版社、2件目は民家でどちらも建物は全焼、民家では4人の遺骨が見つかったとのことだった。
警視庁では2件の放火事件の関連性はおそらくないだろうとの見解だった。

ムロツヨシからの着信が朝からひっきりなしに鳴っているが私はそのすべて無視をしている。

どんなに私のやり方が汚かろうが、私の知ったことではない。
やられたらやり返す。私の正義が認められなかったら、私の制裁を下すまでだ。
私は信じる道を突き進むだけだ。
どこかの使い捨ての誰かを利用したとしても。

ただ、この国の一定数の人間は私を一向に認めようとしないのは確かなようだ。
だったらこちらから見切ってやろう。

ソウルへ向かう国際線のキャンセル待ちのため、待合室に座り足を組む。
私は今日も、私の選んだ、正解でしかありえないこの道を信じている。

#小説 #ムロツヨシ #夢露小説

【夢露(ムロ)小説】
「ムロツヨシとマッキー極細ペン」

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