はつ恋の話。

小さい頃の、ぼんやりとした初恋の相手は、「きかんしゃトーマス」のエドワードだった。
もう少し大きくなった、小学校高学年のとき。私はひとりの男性に心を奪われていた。
この人が私のためだけに笑ってくれたら、すごく幸せだろうな、と思っていた。

その相手は、人気ロックバンドのギタリスト、GLAYのHISASHIさんだった。

今思えば、エドワードとどっこいどっこいの無理めな恋。でも、子どもだった私は本気だった。

消しゴムに緑色のペンで、好きな人の名前を書く。それを誰にも知られることなく使い切ることができたら、両思いになれる。そんなおまじないがあった(今もあるのかしら?)。
好きな人が、私を見つめてくれるかもしれない!初恋に浮かれ舞い上がっている私は、おろしたてのまとまるくんに「HISASHI」と書いた。本名なんか知らないから、まんまローマ字で。

もしHISASHIさんと結婚なんてなったらどうしよう!ライブなんか、最前列で見れるのかな?ていうか、HISASHIさんが私のいるおうちに帰ってくるんだよね?!そんなのどうしよう!
消しゴムが削れるたびに、妄想は広がった。漢字をわざと何度も間違えたり、自分の名前を何度も書き直したりしていた。ずるしたら効力薄れるのかな?これってずるの範疇かな?そんなことも考えた。

ある日、隣の席の男の子に消しゴム貸して、と言われた。わざとの誤字を消し続けた消しゴムのケースからは、うっすらとHのたて棒が見えていた。
めざとい彼は、
「何か書いてある!好きな奴の名前じゃね?見せろよ見せろよ!!」
とんでもない!恥ずかしさと、見られたらHISASHIさんと結婚できなくなる!という危機感に駈られた私は、授業中にも関わらず、男の子と派手に取っ組み合った。そして負けた。
消しゴムのケースを外した彼は、驚いた顔をした。そして私を冷やかすことなく、でも「これ本気で書いたんかよ」という呆れたような、あわれむような表情を浮かべた。消しゴムは裸のまま、無造作に返された。

私は授業中にも関わらず、泣いた。
恥ずかしさと、やっぱりHISASHIさんには届かないんだ、という、失恋した気分の悲しさで。

でもその後、諦めきれずHISASHIさんにプレゼントを目論んで、マフラーを編んだ。
はじめての棒編みは盛大に失敗して、編み終わりはすごく細い、へんてこなマフラーになっていた。

もちろん贈りませんでした。

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