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新たなトレードの形になるか?ロイヤルズが示した可能性

7月31日のMLBトレードデッドラインまでおよそ2週間と迫り、各球団の動きが活性化してきています。

プレーオフ進出を狙うチーム(バイヤー)は、ここまでの戦いぶりを見た上で、今後のプレーオフも含めた戦いを見据え、チームの強化を図ります。
一方で既にプレーオフ争いから脱落してしまったチーム(セラー)は、将来のチームの構想に入らないベテラン選手をバイヤーに売り払い、代わりに成長が見込める若手有望株の獲得を目指します。

既に動き始めている球団も出ており、ALワイルドカード2枠目まで2ゲーム差につけている昨年のチャンピオンのボストン・レッドソックスは、同地区のボルティモア・オリオールズから先発投手のアンドリュー・キャッシュナーを獲得し、先発補強に成功。そのALワイルドカード2枠目を掴んでいるオークランド・アスレチックスも、カンザスシティ・ロイヤルズから先発投手ホーマー・ベイリーを獲得し、こちらも先発を補強。バイヤーの2球団が着々と弱点を補い、両トレードでセラーに回った2球団も若手有望株の獲得に成功しており、未来へ投資することができました。

そして今日は、NL中地区首位を走るシカゴ・カブスが、ロイヤルズから捕手のマーティン・マルドナードを獲得。カブスは正捕手のウィルソン・コントレラスが故障者リスト入りし、少々捕手というポジションが手薄となっていること、また控え捕手ながら打撃が光るビクター・カラティーニを更なるトレードの駒にしたいことが今回のトレードの動機になったのではないかと推察されます。

しかし、今回のトレードで驚きだったのはロイヤルズが得た交換相手です。先述の通り、通常セラーに回るチームはこういったトレードで見返りとして若手有望株を狙います。ところがロイヤルズがマルドナードで獲得したのはマイク・モンゴメリー、MLB5年目30歳のサウスポーただ1人です。なぜこのようなトレードをしたのでしょうか。

1つにマルドナードの市場価値が挙げられます。開幕直前の3月に1年250万ドルという安価な契約でロイヤルズに加入したマルドナードですが、今季の打撃成績は打率/出塁率/長打率がそれぞれ.227/.291/.366、HR6本とお世辞にも良い成績とは言えません。もちろんマルドナードの特徴はどちらかと言えば守備面、ひいてはフレーミングの評価が非常に高い選手ではありますが、それを引っ括めても市場価値がそこまで高くなかったことが推察されます。マルドナードで若手を獲得することももちろんできたとは思いますが、今後MLBで活躍が見込めるような選手が獲得できたかと言えば微妙なところです。

一方、ロイヤルズが獲得したモンゴメリーは今季こそ防御率5.67、rWAR-0.3と苦しんでいますが、2016年から昨年までは先発も中継ぎもこなせるスイングマンとして毎年rWAR1-2を記録する安定した投球を見せてきた実績のあるサウスポーで、2016年のカブスのワールドシリーズ制覇にも大きく貢献しています。
移籍後は丁度ベイリーが抜けた穴を埋めるような形で即先発ローテーション入りするようですが、ロイヤルズの思惑としてはモンゴメリーが先発として以前のような投球を取り戻すことができれば、マルドナードで得られるはずだった若手以上に有望な選手をオフや来季のトレード市場で狙うといったところでしょうか。FAが2021年オフで、チーム側に2年間の保有権があるという点も市場価値を押し上げてくれることでしょう。

また、今年からルールが変更となり、トレードデッドライン後の8月以降にウェーバーを経由したトレードが一切できなくなりました。これによりロイヤルズは今季で契約が切れるマルドナードを何としてでも7月末までにトレードする必要があったものの、中途半端な若手の見返りで妥協するのではなく、2年の保有権があり、かつMLBで実績もあるモンゴメリーで時間的な猶予を稼ぎつつ、将来のトレードバリュー向上に賭けるというトレードに打って出ました。思惑通りモンゴメリーが活躍しない可能性ももちろんありますが、マルドナードで得られるはずだった見返りを考えれば、ローリスクハイリターンなトレードなのではないでしょうか。これはトレードデッドラインでセラーに回るチームはベテラン選手で若手有望株を狙うという従来の概念を崩す新たな一手だと個人的には考えています。

8月以降のトレードが禁止となり、セラーとしては今まで以上にベテラン選手をトレードデッドラインまでに上手く売り捌く必要性が生じている今シーズン。今回ロイヤルズが示した新たなトレードの形というのは、今後同様のケースが増えるかもしれませんね。

Photo by Arturo Pardavila Ⅲ

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