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【シアトル的迷選手で行こう】第1回 エリック・バーンズ

野球の世界最高峰の舞台であるMLB。球界、そして時代を代表するような大スターたちが華々しく活躍し、名選手と呼ばれる裏では、世界最高峰の舞台まで辿り着くだけの才能は持ち合わせているものの、イマイチ残念な部分が抜けきれず、迷選手と呼ばれる存在もいる。そんな選手たち、特にシアトル・マリナーズに在籍したことのある迷選手たちにスポットライトを当てていく。第1回は「自転車男」エリック・バーンズ。

プロフィールエリック・ジェームズ・バーンズ(Eric James Byrnes)1976年2月16日生、カリフォルニア州レッドウッドシティ出身。ポジションは外野手。1998年ドラフト8巡目指名でオークランド・アスレチックス入団MLBでのプレーは2000-2010年の11年間

シアトルに来るまで

2000年にアスレチックスでメジャーデビューを果たしたバーンズ。2003年にはレギュラーの座を掴み取り、121試合に出場。翌2004年には長打力も開花し、広い本拠地でプレーしながらも、20HR、fWARも3.6を記録し、メジャーを代表する外野手に成長した。
その後、移籍したアリゾナ・ダイアモンドバックスでも活躍を続け、2007年には自己最多となる26HR、25盗塁を記録。ナショナル・リーグMVP投票でも11位にランクインし、順風満帆な野球人生を送っていた。

回転投げ

ここまで聞けば、迷選手どころか名選手感しかなく、早速企画倒れの予感しかしない。
しかし、これだけ活躍しているにも関わらず、イマイチ残念な感が抜けきれない点の1つとして、彼の送球スタイルにある。

この動画をご覧頂きたい。

・・・お分りいただけただろうか?
彼は思い切り投げる余り、その勢いのまま回転するのである。もちろん、ふざけているわけではない。おまけに結構強肩である。それだけ勢いよく送球しているとも言える。
しかし、同じ時代のスター外野手であるイチローやトリー・ハンター(元ツインズ等)が同じように強肩でアウトにすればファインプレーとして人々の記憶に刻まれるのだが、ことバーンズに関してはこの回転投げが加わるせいか、素晴らしいプレーであるものの、どうしても思わずクスリとなってしまう点においてはやや残念と言わざるを得ない。

シアトル時代〜スクイズ見逃し、そして自転車男へ〜

そしてバーンズを迷選手とたらしめるのがマリナーズ時代の2010年である。
2010年、マリナーズは燃えていた。前年にプレーオフ進出は逃したものの、85勝を挙げ、さらにオフにはエース格のクリフ・リー、リーグ屈指のスピードスターであるショーン・フィギンスを補強し、2001年以来のプレーオフ進出を本気で目指していた。バーンズについては故障に悩まされ、既にピークは過ぎていたものの、ベテランの控え外野手としての貢献が期待されていた。

事件が起きたのは4月30日のテキサス・レンジャース戦だった。
試合はマリナーズ先発リー、レンジャース先発コルビー・ルイス(元広島等)が両者一歩も譲らない熾烈な投手戦となり、0-0のまま、延長戦に突入。バーンズはケン・グリフィーJr.の代走として、延長10回裏から途中出場した。
延長11回裏、マリナーズはイチロー、フィギンスの連打などで1アウト満塁の絶好のサヨナラ機を演出する。

ここで打席に迎えるのは途中出場のバーンズ。どんな形でも1点入ればサヨナラという状況で、ドン・ワカマツ監督はスクイズのサインを出す。とにかくフェアゾーンに転がしてくれさえすれば、予めスタートを切った俊足のイチローなら余裕でホームインできるだろうという算段だ。
当然、バーンズに求められる役割としてはどんなボールでも見逃さずに、ボールをバットに当てることである。野球の世界最高峰の舞台において、それを理解していない選手などいるまい。バーンズもバントの構えに入る。

だが、バーンズは常人の理解を超える行動に出たのであった。

バットを引いて、見逃したのである。

スタートを切っていたイチローはこの予想外の行動に対応できず、ホームタッチアウト。さらにバーンズ自身も見逃し三振に倒れ、マリナーズは絶好機を逃してしまう。
その後、12回表にマリナーズは自滅し(ブランドン・リーグという名前のリリーフのワイルドピッチで先制を許す)、この試合を落としてしまう。

ボール球ではあったが、決してバットが届かない範囲とは言い難い。
にも関わらず、バーンズはバットを引いた。キャッチャーのマット・トレーナーも速球を落球するほど、この出来事が想定外であることを物語っている。
この不可解な行動にはマリナーズファンのみならず、レンジャースファン、ひいては全MLBファンを驚かせた。

もちろん敗戦自体はバーンズのみの責任ではないが、少なくともあのプレーに対する説明責任はプロとしてあるだろう。
だが、バーンズの迷走は止まらない。プレーの説明をワカマツ監督にしないまま、自転車で自宅に逃亡したのである。途中でGMのジャック・ズレンシックとすれ違ったようだが、御構い無しに、一目散で帰宅したようである。「自転車男」エリック・バーンズ誕生の瞬間である。

その後

本件をチームに対する背信行為と捉えたマリナーズフロントは、2日後の5月2日にバーンズを解雇した。
ちなみに、この一件でレンジャースのロン・ワシントン監督が退場となっている。理由はバーンズがスイングしたのではないかと抗議したためである。

ジム(球審のジム・ウルフ)が、エリックがバットを引いたと言ってきたので、信じられなかった。イチローがスタートを切って、エリックもバントの構えに入っていた。バットを引くはずがない。でも彼はそうした。

バーンズは解雇後、そのまま現役を引退。その後、一時ソフトボールチームの主軸を務めることもあったが、最近はMLBネットワークの解説業に勤しむなど、本業関連でまだまだ頑張っているようである。技術的な部分も噛み砕いて説明しているため、個人的には非常にわかりやすいと感じる。ぜひ一度ご覧頂きたい。

ちなみに2010年のマリナーズはと言うと、このバーンズの一件を皮切りに様々な内紛が頻発。フィールド内外でチームの状況は最後まで芳しくなく、結局プレーオフ進出を目指したシーズンに101敗を喫するという「惨敗」という言葉が相応しいシーズンを送った。

Photo by Amit Mittal

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