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【シアトル的迷選手で行こう】第6回 ヘスス・モンテロ

野球の世界最高峰の舞台であるMLB。球界、そして時代を代表するような大スターたちが華々しく活躍し、名選手と呼ばれる裏では、世界最高峰の舞台まで辿り着くだけの才能は持ち合わせているものの、イマイチ残念な部分が抜けきれず、迷選手と呼ばれる存在もいる。そんな選手たち、特にシアトル・マリナーズ に在籍したことのある迷選手たちにスポットライトを当てていく。第6回はヘスス・モンテロ。

(第5回はこちら)

プロフィール
ヘスス・アレハンドロ・モンテロ・ロペス(Jesus Alejandro Montero Lopez)
1989年11月28日生、ベネズエラ・グアカラ出身。ポジションは捕手/一塁手/DH。
2006年アマチュアFAでニューヨーク・ヤンキース入団。
MLBでのプレーは2011-2015年の5年間(現役)

輝かしいヤンキース傘下時代

2006年に16歳でニューヨーク・ヤンキースと契約したモンテロ。当時から非凡な打撃センスが高く評価されており、ベースボール・アメリカ誌はモンテロを2006年のアマチュアFAの中でも最も有望な選手と評した。

ヤンキース入団後も、その評価に違わぬ活躍を見せた。順調に各マイナークラスで活躍すると、2010年にはメジャーでも指折りの若手有望株に成長。キャッチャーとしての守備力については疑問符が付いていたものの、打撃に関しては文句無しの評価で、ベースボール・アメリカ誌のプロスペクトランキングでも、球界全体で4位に入るなど、今後の野球界を背負うスター候補として期待されていた。

2011年のセプテンバー・コールアップによるロースター枠拡大でメジャー初昇格を果たすと、9月5日のボルティモア・オリオールズ戦では1試合2本のホームランを放つ活躍を見せるなど、早速メジャーに適応。わずか1ヶ月間、18試合の出場ながらも、打率.328、4HR、12打点と来季以降の成長に期待が持てる打撃成績を残した。

シアトルの未来

ニューヨークで打撃の新星が生まれていたその頃、真反対の西海岸シアトルでは打線が凍てついていたチームがあった。マイク・カープやミゲル・オリーボといった、本来であればリプレイスメントレベルの選手たちを打線の中軸に置かざるを得ないほどの深刻な貧打にあえいでおり、得点力は低迷。MLBでも下から数えた方が早いどころか下から1番目という状況に悩まされていた。

マリナーズのジャック・ズレンシックGMはそんな冷え切った打線のテコ入れとして、次代のスターであるモンテロの獲得を決める。当然のことながら対価は安くなく、前年にルーキーながらオールスターに選出される活躍を見せた先発投手マイケル・ピネダを放出することとなったが、それでもズレンシックGMはトレードを決行した。それだけマリナーズ打線の現状を打開したかったという思いと、モンテロにかける期待の大きさが伺える(関係ないが、モンテロと共にやってきた選手はこの子である)。

モンテロ獲得を喜ぶ声、ピネダ放出に怒る声。マリナーズファンのトレードに対する反応は様々だった。しかし何はともあれ、2009年ドラフト全体2位指名のダスティン・アクリー、マーク・テシェイラ2世と期待された若きスラッガーであるジャスティン・スモーク、そしてモンテロと次代のスター候補と言える若い打者たちが一気にマリナーズに揃ったのだ。マリナーズの未来は明るいと多くのファンは感じたであろう。

ファンの期待に応えるかのように、モンテロは早速レギュラーを掴む。打者有利なヤンキースタジアムから、投手有利かつ右打者地獄とも呼ばれるセーフコ・フィールドへの移籍ということもあり、打撃成績に関しては当初の期待通りとは言えなかったものの、チームトップの打率.260、ホームランも15本とルーキーの捕手としてはまずまずの打撃成績を残した。

一方で、捕手としての守備能力は壊滅的で、盗塁阻止率はわずかに17%だった。捕手としては計算ができないことが明るみになり、マリナーズはこの年のドラフト全体3位指名で、守備力を評価されていた捕手マイク・ズニーノを指名している。

凋落の始まり

ルーキーイヤーが終わり、前年以上に結果が求められるはずの2013年シーズンだったが、モンテロは開幕から苦しんでしまう。自慢の長打力を発揮するどころか、シングルヒットすら出ない深刻な打撃のスランプが長く続き、4月23日時点で打率はわずかに.208と低迷。打撃で結果を残さなければチームに貢献することができないタイプの選手の打率としてはあまりに悲惨なものであり、当然ながら出場機会も次第に失われていき、5月23日にはついにマイナー落ちしてしまう。

トリプルAのタコマで何とか浮上のきっかけを掴もうとしたが、打撃のスランプは深刻さを極めており、マイナーでも打率2割台前半、ホームランはわずかに1本。ほんの1年前まで球界屈指のプロスペクトと言われていた選手とは思えないほどの惨状だった。

さらに追い打ちをかけるかの如く、8月に起きた「バイオジェネシス・スキャンダル」により、禁止薬物の処方を受けていたことが明るみになってしまい、MLB機構から50試合の出場停止処分を言い渡され、そのままシーズンエンド。レギュラーシーズン終了後には母国ベネズエラのウィンターリーグに参加するも、交通事故で手を負傷し、そのまま離脱。結果が求められたシーズンにも関わらず、2013年はロクに活躍ができないまま、終わってしまう。

そして、この2013年がモンテロの凋落の始まりだったのである。

激太りキャンプインとアイスクリーム事件

2014年シーズン。前年の不振、さらにはズニーノが台頭してきたこともあり、レギュラー争いを勝ち抜かなければならない立場にあるにも関わらず、モンテロは球団が設定した目標体重から18kg超過というおおよそプロ意識に欠けた状態でキャンプインする。

本人曰く、ウィンターリーグ終了後から「食べることしかしていなかった」らしく、丸々と太ったその姿にプロ野球選手としての面影はなかった。

さすがのズレンシックGMも、モンテロのプロ意識の低さには呆れ返り、スプリングトレーニングの序盤ながら「彼には一切期待していない」という厳しいコメントを出すほど。2年前、チームの未来を担う選手に成長することを期待して獲得してきたプロスペクトがこの有様なのだから無理もない。

"We are disappointed in how he came in physically. ... It’s up to him. I have zero expectations for Jesus Montero. Any expectations I had are gone. ... He’s got a ton to prove. It’s all on him."
-Jack Zduriencik

当然ながら、このような状態で開幕メジャー入りすることは到底叶わず、マイナーで開幕を迎えることになる。さすがのモンテロもこの現状に危機感を覚えたのか、開幕後は打率.286、ホームランも16本放ち、前年の打撃不振を払拭。いつでもメジャーに戻れる状態にあるとフロントにアピールできていたが・・・

シーズン終盤に脇腹を痛め、故障者リスト入りしたモンテロ。復帰前のリハビリとしてシングルAのエバレット・アクアソックスでプレーした際に前代未聞の「アイスクリーム事件」を起こす。

8月28日のアクアソックスとボイシ・ホークスの一戦。リハビリ中のモンテロは試合には出場せず、一塁コーチを務めていた。アクアソックスの攻撃が終了し、ベンチに引き揚げようとしたモンテロに対して、観客席のスカウトらしき人物(後にマリナーズのスカウトと判明する)がスペイン語で「早くしろ!」という野次を繰り返し飛ばしてきた。

モンテロは野次を相手にせず、その時はそのままベンチに引き揚げたが、スカウトの行動がエスカレートする。なんとそのスカウトはアイスクリームサンドを購入し、それをベンチのモンテロに「プレゼント」したのだ。太り過ぎでキャンプインしてきたモンテロを揶揄したのである。この行動にモンテロは激高し、バットを片手にスタンドに乗り込み、スカウトにアイスクリームサンドを投げつける騒ぎを起こす。

自チームの選手を侮辱するスカウト、そして試合中にも関わらず激怒し、スタンドに迫るという愚行に出た選手。マイナーリーグで起きた前代未聞の事件はESPNなど大手メディアでも大きく取り上げられた。

公衆の面前で、仮にも同じチームに属する選手とスカウト同士が恥さらしと言っても過言ではない行動に出た代償は重く、モンテロはシーズンの残り試合の出場停止をチームから言い渡される。この時、マリナーズは熾烈なプレーオフ争い中。リハビリが順調に行っていれば、9月のロースター枠拡大でモンテロにチャンスが与えられたはずなだけに、自らそのチャンスを投げ捨てる格好となったこの「アイスクリーム事件」が残念でならない。

その後

2015年シーズンはマイナーでは打ちまくるも、メジャーでは結果を残せず、2016年のシーズン開幕前にDFAされ、失望に満ちたシアトル時代は幕を閉じた。

その後はトロント・ブルージェイズやボルティモア・オリオールズとマイナー契約を結ぶも、メジャーの舞台に再び戻ることは叶っていない。

球界の次代のスターとして期待されたトッププロスペクト時代から、まさに転落の野球人生。モンテロがかつての輝きを取り戻す日は来るのだろうか。

Photo by Keith Allison

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