#創作大賞感想『カール大公の恋』
私は西洋史が好きで、その分野の小説を読むことがあります。
ただ日本語で読める作品はどうしても限られており、これまで手に取った作品はマリー・アントワネットやナポレオンなど華やかな有名人を扱ったものが殆どでした。
しかしこの度 創作大賞応募作品の中から、渋めの主人公ながら非常に心に残った歴史小説を見つけたので 熱くご紹介したいと思います!
✤作品概要
タイトル
『カール大公の恋』
登場人物(一部)
-カール大公
神聖ローマ皇帝フランツの弟。
敵のナポレオンも一目置く優秀な軍人であった
-ナポレオン・ボナパルト
脇役
-ライヒシュタット公
ナポレオンの息子
-マリー・テレーズ
マリー・アントワネットの娘
時代背景
ルイ16世とマリー・アントワネットがギロチン台の露と消え、ナポレオンが主役に躍り出たヨーロッパ。
そんな時代を、オーストリア・ハプスブルク家の目線から綴ります。
✤作品の魅力
主人公がかっこいい!
登場人物紹介で、カール大公のことを「敵のナポレオンも一目置く優秀な軍人」と書きました。
これだけだと、さぞかしギラギラ出世欲にまみれたマッチョな男性なのではと想像するかもしれません。
◇
しかし実際のカールは、病弱で内気な人物でした。
ただ内気という性質は「思慮深い」と捉えることもできます。
この作品の中で、彼は思慮深さと軍人らしい真っ直ぐさが合わさり、何とも魅力的な人物に描かれているのです。
その分恋愛に関しては不器用にも見え、そこがまた素敵です。
※特にかっこいいカールが見られておすすめなのは第二話!
若年期〜晩年までを綴った人間ドラマ
さてこちらのお話、描かれているのは若い時の恋物語だけではありません。
物語序盤に登場するナポレオンはのちにフランス皇帝となり、ハプスブルク家の皇女と再婚。そして息子が誕生、没落、死亡。
その間カール大公も家庭を持ち、また青年に成長したナポレオンの息子の面倒を見ることになります。
◇
そして終盤、還暦を過ぎたカール大公が長女の結婚式に参列するシーンが。
その時彼は、かつて思いを寄せた女性を目撃し、これまでの人生で関わりを持った様々な人物を思い出すのです─。
年齢を重ねた大人にしか出せない味わいのクライマックス、私は何故か竹内まりやさんの「駅」が思い浮かびました。
(男女逆ですが、こちらは女性がかつての恋人を目撃するという内容の歌詞です)
円熟したカールの魅力があふれる最終回はこちら
綿密な時代考証
さてこの作品、舞台はナポレオン戦争や革命などがあった激動の時代ですが、メインはあくまでも当時を生きた人達の心の機微だと思います。
もちろん歴史上の人物の心の中をのぞくことはできないので、想像するしかありません。
しかし、『カール大公の恋』は決して荒唐無稽な空想で書かれたわけではないのです。
◇
と言うのも 作者のせりももさん、歴史小説を書くにあたり 非常に緻密な調査をしておられます。
こちらの記事によると、日本語の書籍のみならずドイツ語、イタリア語らしき論文(←この辺で私の脳みそが追いつかなくなっている)、
更にはフランス国立図書館が所蔵するものまで、非常に多岐に渡る資料にあたっておられます。
この事から、『カール大公の恋』はせりももさんの膨大な手間暇と知識に基づいた、非常に価値の高い作品であることがお分かり頂けるかと思います。
安心してください、
もうひとつ付け加えたいのが、本作は読みものとしての面白さもきちんと兼ね備えているという点です。
世界史が苦手という方の中には
「教師がわけわからんカタカナを一方的に喋りまくるせいで無理になった」
「同じ名前が多過ぎて混乱する」
というご意見もあるかと思います。
しかし せりももさんの文章は決して読者を置いてけぼりにはしません。
例えば本作には「フランツ」という名前の人物が2人出てきますが、不思議と混乱しないんです。
Webでの執筆歴10年との事で、読者ファーストな書き方に優れていらっしゃるのも納得です。
こちらの記事で、せりももさんがWeb小説を執筆するに至った経緯や、歴史小説への取り組み姿勢を知ることができます↓
おわりに
これまであまりよく知らなかったハプスブルク家のメンバー・カール大公の魅力に気づかせくれた、貴重な物語のご紹介でした。
この記事をきっかけに 1人でも多くの方がカール大公(或いは他の登場人物でも)の魅力に触れ、世界史に興味を持たれることを願ってやみません。
最後に、ご紹介した『カール大公の恋』第1話へのリンクを貼って結びと致します。
熱い感想文にお付き合い頂き、ありがとうございました!
トップ画像:
ウィーンにあるカール大公の騎馬像
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