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春眠暁を覚えずには早すぎる【初めて遅刻をした話】


いまの職場でわたしは5年間無遅刻無早退無欠勤だった。
そう、“だった”のだ。

先日、わたしは初めての遅刻をやらかした。

そもそもわたしは現在、夜勤をしている。
出勤の定時は午後の5時。
普段の過ごし方といえばこんな感じ。
深夜2時くらい、最低でも太陽が昇る前の明け方4時には就寝する。たっぷり寝て、昼過ぎに起き、家のことをした後ゆったりと出勤することができる。

もちろん、前日の夜に飲みに行くことも、午前に予定があったりもするから先述のは理想のルーティンだ。

あの日、前日は休みで、お昼頃に起床し、家事をした。その後、家で手帳を書いたり、読書をしたり。誰かとの予定があったわけでも、飲酒をしていたわけではない。そして翌日の夜勤に備えて、夜中の4時ごろに就寝した。たしかに早寝ではないが、夜勤前の睡眠として遅すぎるわけではない。実際、朝、太陽が空高く登ってからベッドに入る夜勤従事者は多い。

夜勤当日、予定ではいつも通りの昼過ぎのアラームで起きるつもりだった。

スマートウォッチの震えで目が覚めた時間は16時53分だった。

起き抜けの頭は先輩からの着信だと言うのは認識した。しかしながら、わたしに寝過ぎた自覚はなく、「誰か欠員が出て早めに来て欲しい」という連絡だろうか?と思ったくらいだ。iPhoneの左上の時刻表示を見て青ざめた。

動転して電話の出方すら忘れている間に電話は切れ、かけ直したがタイミングは悪く、慌てながら震える指でコンタクトを入れてる間に再度電話はかかってきた。

「ほんとうにすみません!必ず、行きます

人間、焦るとこうも言語が不自由になるものなんだろうか。
映画だったらこの後すぐゾンビに殺されそうな台詞が口から飛び出した。

「あ、いま起きた感じ?」

先輩の声は優しかった。
5年以上無遅刻無欠勤だったことが功を奏し、なにか事故にでもあっているのか心配されてたようだった。

電話を終えるとすぐにシャワーを浴びた。シャワーを浴びずにそのまますっぴんで出勤し、19時ごろにある15分の休憩で化粧をすることも考えた。しかしそれでも17時半には間に合いそうもなかった。ならとりあえずシャワーを浴びていったん落ち着こうと思った。
「慌てないでね~」
わたしの性格や行動をよく理解している先輩からのメッセージが表示された。
シャワーと化粧を終えて17時半前には自転車に飛び乗った。自宅から職場までは4キロほどだ。
信号待ちで「18時までには出勤できます」と先輩に送り、「気を付けてね~」と返信が来た。おそらく事故を心配されている。
 そして爆速で自転車を漕ぎ、制服に着替え、17時49分にタイムカードを切った。
自分で横に「遅刻」と書こうとしたが手が震えてペンが持てなかった。
何度もメモ用紙に試し書きしてからようやく記入した。

会う人すべてに直角のお辞儀で謝罪をした。体育会系の男子学生さながら。
誰も怒らなかった。
「心配した」
「命があってなによりです」
「監禁されてるのかと思った」
みんな笑っていた。
「一時間以内で間に合わせるのがさすがよね」
先輩にはむしろ褒められた。

この職場に入って5年以上、無遅刻無早退で無欠勤。職場で、インフルエンザやコロナウイルスが流行しても発症したこともなかった。生粋の元気キャラだ。それだけ積み上げてきたのに、それなのに初めて遅刻をした。

ただの寝坊で。

それも13時間以上寝続けて。

なんともマヌケな話だ。

それはそれでわたしらしかったらしく、後輩やバイトの子たちに大いにウケた。「必ず行きます」という受け答えも相まって。

初めての寝坊が本当に悔しく、あれから職場の夢ばかり見ている。
せめて無欠勤記録は途絶えさせまいと、日々自分の体調の変化への意識だけ向上した。

ああ、本当に悔しい。