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薬局の本棚🔹アルコール依存症(補遺)

〈薬局の本棚〉は、読書好きの薬剤師が薬局で紹介したい本について書いています。アルコール依存症(1)では吾妻ひでおさん、(2)では町田康さんの書籍を取りあげました。

今回はオマケですが、紹介した書籍の補足情報と、いちおう薬屋なので治療薬についても少しだけお伝えします。

吾妻ひでおさんには、この続編に『逃亡日記』と『うつうつひでお日記』(さらにその続き)もあります。
前者は作者ご自身が本の中で「これ『失踪日記』の便乗本。皆さんこの本買わなくていいです!漫画だけ立ち読みしてください!」とおっしゃっています(笑) 
確かに、やる気ないインタビューがメインですね。漫画はいつも通り面白いです。
後者は、吾妻さんのその後についてや、うつ病にも興味のある方におすすめ。

町田康さんの『しらふで生きる』では、読者も断酒すべき!と説得された感があるのだけど、最後に、酒をやめるかどうかは〈善悪〉のはなしではない、という記述がありまして。

そこで最後に言っておきたい。
もしここまで私が書いた文章を読んで、禁酒をしたその際、禁酒を善とし或いは正とし、飲酒を悪とし或いは邪として、酒徒を論難したり排撃したりするのはやめてほしいということである。

人間の中には善も悪も正も邪も同時に存在している。

それをば、自分の属する側を善とし、悪を討ち滅ぼすことは善行、とすると人間と人間の隔てが生じ、その隔てが争いと混乱を招来するからである。

もちろんそんなことは世の中に多く行われていて、そのパワーもまた人間の生のパワーと言えなくもないのだが、まあ、少しでも愉快に過ごしたいのならそうした善悪の争いからは身を遠ざけるのが吉と言えるであろう。 しかし一度、善に凝り固まるとなかなか抜け出せない。

「どう考えたって」「誰が考えたって 」「人類普遍の」と思うともうそれ以外の立場・身の上に想像力が及ばなくなる。そうした際、ひとつのチェックポイントとして、そのこと、つまり悪を撃攘することに 「快」が混ざっていないか、を考えてみるとよいだろう。わずかでも「快」があればよしたほうが身のためだ。

町田康『しらふで生きる』

ほんとにそうやなあ。酒だってタバコだってヘルスケア的にはやめたほうがいいに決まっているのだが、それを人にどうこう言うのはまた別で。この件についてはまたおいおい書きたいところです。

最後に、治療薬紹介をほんの少々。
離脱症状(幻覚、感覚異常など)や不安・不眠症状に対して使う薬剤は、アルコール依存症だからといって特殊なものはないため、ここではいわゆる嫌酒薬と減酒薬についてのみ記載します。

アルコール依存症治療薬

〈アルデヒド脱水素酵素阻害作用により、アセトアルデヒドを増加させ飲酒欲求を抑制〉
シアナマイド(シアナミド) 、ノックビン (ジスルフィラム)
1963年発売/1983年発売

〈グルタミン酸作動性神経活動を抑制し、飲酒欲求を抑える〉
レグテクト(アカンプロサートカルシウム)
2013年発売

〈オピオイド受容体に作用し、内因性オピオイドにより引き起こされる快・不快の情動を調節〉
セリンクロ(ナルメフェン)
2019年発売

『今日の治療薬2024』より

That's All.
アルコールを分解できなくさせて、強制的に飲めなくしちゃう嫌酒薬(もしお酒を飲んだらひどい二日酔い状態になる)は昔からあります。そして、2013年と2019年にようやく新しい作用の薬が登場。

最も新しいセリンクロは、飲酒する1〜2時間前に服薬することで、飲酒量を減らせるという薬です。
減酒したところでアルコール依存症は治らないよ?と全然期待していなかったわたしですが…
依存症専門医によると、ゲーム障害やギャンブル依存症にも(保険適応外ですが)効果があるそうです。脳の報酬系への作用のため。なるほどなるほど。
あとは、自分の飲酒行動に不安を持ったとしてもいきなり精神科を受診するのはハードルが高いため、かかりつけの医師でも処方可能な薬剤として、あってもいいと考えます。
ただし、指定の講習を修了した医師のみが処方可能となっていますので、どこででも処方してもらえるわけではありません。興味のある方は主治医に相談してみてください。

では、飲酒行動を振り返りたくなったときにすぐできるチェックシートを添付しておきます。


さて、今晩なにを飲むか/飲まないか、もしくは、なにを読むか/読まないか、決めましたか?
わたしは町田康さんの『スピンク合財帖』を読みたいと思います。ではまた。



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