鳥人間コンテスト(3)

「やばいっす」
 奥村はニカっと笑って生ビールを飲んだ。
「これ生えてきてから、売り上げ2倍っす。会話のきっかけなるんで」
 彼は翼を隠さないタイプの有翼人種だった。ワイシャツとジャケットの背を貫き、居酒屋で翼を恥ずかしげもなく出している。
「女の子、触らしてくれって言ってきて、スゴイっす」
 彼の翼は小型タイプで広げても全翼80cm程だった、それがコンパクトに畳まれている。
「先輩、写メ見ますか?」
 ニヤニヤしながら小型の翼をパタパタさせた。作り物みたいに見えて、忘年会で調子に乗ってパーティーグッズを装着したサラリーマンと変わらない。

 先輩と呼ばれているのは、印刷会社付きのデザイナー兼イラストレーターの田畑だ。。
営業の奥村は7つ下だが、翼が生えてきてから成績がよく、多分給料はとっくに越されている。
「ほんとやばいっす」
 奥村はジョッキを手にニカっと笑った。
「でもあれ、まだ辛いっす」
 奥村は笑顔のまま目を伏せた。彼には婚約した彼女がいたが、翼が生えてきたことで気味悪がられて別れを告げられたのだった。後日にそのショックで二階にあるバーのテラスから飛び降りて死のうとして、片足を骨折したことがあった。バーの客、通行人がのたうつ彼をスマフォで撮影しながら大いに盛り上がったものだ。田畑も憐れみつつ動画を撮っていた。


「やべっす」
 田畑は無言で頷き、控えめに同情した。
「お待たせしました! 鳥の手羽揚げです」
 店員がテーブルに皿を置いた。
「俺これ好きなんす! 先いただいていっすか」
 奥村はそう言いながら手羽先にかぶりつき、悲鳴を漏らして口の中を火傷した。
 田畑は転職を考えていて、奥村にそっと告げようと思っていたが、やっぱり言うのをやめた。
「ちょう熱いっす。やべっす」

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