鳥人間コンテスト(2)

 家の外では翼をリュック状の袋に収めておく。
 まず何よりも目立つ、というのが理由だ。
 狩石まる子はアパートに帰ると靴を脱ぎ、その“翼袋”を外した。
 冷凍のご飯をレンジで温め、帰り道で買った惣菜と食べた。
最近は外食する機会が減っていた。翼は袋に覆われているとはいえ、背中よりも大きいそれは人の目を引くし、背もたれがある椅子では干渉してしまって心地が良くない。

 この翼が生えてくる事例は数年前から目立ち始め、現在では日本全国に400人ほどの有翼人種が存在しているらしい。
 医学的にも研究が進んでいるが、まだ結局のところ何もわかっていないようだった。もちろん、骨格や筋肉の構造は明らかになっているが、なぜそうなったのかは誰も知らないのだ。医師、生物学者、社会学者、宗教家、音楽家、大工、ギャルなど夫々が様々な仮説を立てている。それぞれの願望を元にして。

 まる子は何だかわからないけど買ってみた缶のクラフトビールを飲みながら、テレビを観ている。芸人二人が有翼人種の女子高生を取材していた。テロップで大きく「まさに天使!! 」と表示された。
 自分で制服をお直しして、背中の翼が外に出せるようにしているらしい。
「有翼人種」っていうのもそろそろポリコレ的にメディアでは使えなくなるよな、とまる子は他人事のように思った。
 自分も服は翼が出れるようにお直ししていた。最近はそれを格安でやってくれるNPOがあるみたいだけど、いろいろ面倒なので通勤路にあるお直しコンシェルジェ・ビッグママでオーダーしていた。トップスを買うと必ず追加コストが発生してしまう。飲食店での椅子もそうだが、全国に400人ほどしかいないので、奇異の目で見られようと、社会の関心は薄い。
 テレビではにかむ女子高生の髪はツヤツヤで翼も輝いているようだった。

 浴室でシャワーを浴び、ボディーソープで身体を洗う。翼は基本、微量の油脂分が必要なため、ぬるま湯でざっと流すだけの方がいいのだが、やはりさっぱりしたいので軽く洗う。仕上げにオリーブオイルや椿湯でコンディショニングする。翼は結構な面積があるので、これが一番お金がかかるかもしれない。市販の髪用コンディショナーで良いのもあるが、それでは金がかかりすぎるため工夫している。
 まる子はドライヤーで髪と翼を乾かし、てきとうな寝巻きに着替え、ベッドでうつ伏せになり、SNSをしながら寝た。

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