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アルゴリズミック・アート「伊勢物語・第九段・八橋」作品概要

作品概要を書くのは、どこかのコンペに出したりすることが多いのだけれど、ほとんど国際メディア・フェスティバルに出しているので、なかなか日本語で書くチャンスがありません。勿論日本語で書いたほうが本当の処、隅々まで思考が及びます。とは言っても、年に1度くらいは日本語で書くチャンスもあって、先日応募できそうな日本のコンペがあったので、書いてみました。日本語で考える、アート史とも複雑に絡み合った内容を600字の制約で書くのはちょっときつい。

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伊勢物語・第九段・八橋

作品「伊勢物語・第九段・八橋」は、バイナリ(0, 1)をアート素材として制作したアルゴリズミック・アートです(使用言語 LiveCode)。視覚と聴覚の関連性を追求したこの作品は、尾形光琳の杜若(かきつばた)屏風絵の画像データを音楽に変換、その工程をビデオにしています。

21世紀の現在、言語・文字・画像・音楽等、これまで文明が築いてきた全てのメディアは、バイナリに変換して記録できます。それは出力形式さえ整えれば、データの互換が可能という意味です。

このプロジェクトのため作者がプログラムしたアプリは、屏風絵の視覚データをバイナリで採取して音階に変換しました。現代アートは視覚だけまたは聴覚だけ、という一つの感覚の境界を越えた次元を扱い始めています。

作品ビデオは二隻の屏風の画像データを右から左に読み込んで、3秒ごとにビデオフレームを162に分割したグリッドから、色彩データを3コマづつランダムに採取して音階に変換、データをMIDIピアノで演奏しています。

オリジナル屏風絵の題材「伊勢物語」は、平安時代の和歌とそれにまつわる短編をまとめた歌物語で、尾形光琳に代表される琳派に大きな影響を与え、日本の絵画・工芸・能・小説等のテーマとして多くの作品に引き継がれてきました。このアートワークもその流れを汲むものです。

現在この屏風はニューヨークのメトロポリタン美術館の所蔵で、画像はパブリックドメインです。

作品のアピールポイント

人類史に登場した伝達メディアは全て「バイナリー」という情報に還元される現在、アートの素材もバイナリーの構築という発想になって当然のことです。ましてアートは複数のメディア、複数の感覚を同時に扱う時代に入っています。

「伊勢物語」は原文の、音楽的な流れとリズム感が重要な歌物語です。屏風絵という右から左に流れる尾形光琳の視覚情報から、これまでの音楽の創作とは違う価値の12音階を取り出す実験アートです。


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