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No.2 彼の育てた植物は垂直に伸びる

D君が食べ終わったアボカドの種を育てると聞いたとき、
ああそうですか、と興味のきの字もなく
芽が出、苗になり、すくすくと育っていく過程にも
そら、ようござんすねと、素気もない
わたしでしたが、

5年間、ただひたすらに、まっすぐ伸び続けた
「はたき」をひっくり返したようなそのお姿に
学ぶべきはわたしだと、
この尊さには拍手を贈るべきだと、考えなおした。
身の丈110センチほど。
細い茎は、ぐれてなるものか、横道にそれてなるものか、
と、必死に耐え抜いた精神のごとく
折れることなく、徐々に歩みを進めてきた
命の軌跡そのものだ。
健気なその立ち姿はさながら、正しい起立を教えられたばかりの
真面目な小学生のよう。
両手を身体の両脇に押し込むようにし、手先はピンと伸び、顎を引き、余計なものを見る気はありませんという意志をもった見事な立ち姿。

あっぱれ。

実によく、起立している。

それにしても、と考える。
実をつけるわけでもなし、観葉植物としては寂しい
このアボカドを、
どんな気持ちで育てているんだろう。
いや、それこそが、彼の良さだ。
意味は必要ない。

きちんと立ち続ける、
それは誰にでもできることじゃない。
ましてや、
わたしには、身につけるべき要素に
違いない。


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