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君の名は。

趣味がきっかけで知り合い、1ヶ月に2度か3度くらいのペースで会う友だちがいます。

でも、僕は彼の本名を知りません。お互いにフォローし合っている趣味用のTwitterアカウントの名前、要するに「ハンドルネーム」しか知らないんです。

そのうえ、彼のハンドルネームはアルファベットと数字を組み合わせたもので、それが僕にしてみれば不規則な文字の並びにしか見えないので、読み方および呼び方がわかりません。

たとえば、ハンドルネームが「マイケル」であるとか「なせん」であるとか「今夜はサイトウ」なのであれば、そのまま呼べたんですが、読めないことには呼ぶことができません。なんなんですか、この今までに直面したことのないタイプの難問は。

「呼び方がわからないなら、直接聞けばよくない?」と言われてしまえば、全くそのとおり過ぎて反論する余地がありません。ド正論で殴ってこないでください。

なんとなく聞けないままに時間が過ぎて今に至ってるのでこうして書いてるわけです。マリー・アントワネットかよ。やめてください。

ちなみに、彼は僕のことを「りょうさん」と呼びます。でも、たぶん「石川遼」であることは知らないと思います。

今はSNSでの出会いも当たり前になった時代だし、本名を知らない同士の関係がめちゃくちゃ珍しいのかといえばそんなこともないのでしょう。ハンドルネームで呼び合ってる人もきっとそこら中にいそうですし。

まあ、呼び方すらわからないというのは稀中の稀だと思いますけど。

名前を知らないくらいだから、プライベートなこともほとんど知りません。彼は結婚していて、子どもが2人いることは会話の流れで知りました。

逆に僕が結婚していることは、聞かれた覚えもないのでおそらく話していません。隠しているわけでも知られたくないわけでもないのですが、聞かれてないので話していない、というだけです。

あと、話しててなんとなく年下っぽいなという雰囲気を感じていますが、年齢なんかもまったく知りません。

「これは友だちと呼べる関係なのでしょうか?」

そんなことを考えることもあります。まあ考えるだけで特に何をするわけでもないし、至って友好な友人関係を築いていると思います。

いや、でもこれは僕の中でだけの結論で、向こうは「この人なんで名前聞かないんだろう?」と訝しがっている可能性はあります。「名前を聞いてこないくせに結構誘ってくるな。どういう神経なんだろう」とか思われている可能性だってあります。心配です。

ただ僕は、彼と遊んでいるその時間と同じくらい、その関係性の奇妙さを楽しんでいる節があります。面と向かいあった状況で、「この人の名前知らないんだよなあ」としみじみ思ったりしています。

そして、ここまでくると自分から名前を聞いたら負け(…?)だと思っています。僕はいったいどこまできたんでしょうか? 

負けたくはないので、今さらになって自分から「何て呼べばいいですか?」と聞くことは絶対にしません。

彼から「僕の名前知ってます?」と言われたら僕の勝ちです。そこで初めて彼の名前を尋ねてみようと思います。その場面を想像するだけで恥ずかしいです。

「僕の名前知ってます?」って記憶喪失の人が手がかりを探しているシチュエーションでしか聞けなそうなフレーズなんですけど、僕はこの“ゲーム”に勝つことができるのでしょうか。

彼が記憶を失うのが先か、僕が口を滑らせて名前を聞いてしまうのが先か。この奇妙な戦いの決着はいかに!

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