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首にして下さい



妹の子供、はなちゃんが3歳頃の事だ。
はなちゃんは、女の子だが頭も良く、お喋りで、運動神経も抜群で体も良く動き、昼寝をしないので周りの大人たちは全員疲れ果てた。
私の家に来ると大抵お店屋さんごっこが始まるのだが、その日はレストランだった。
レストランを始めるには、まずレストランの宣伝をする為のチラシ作りから始めなくてはならない。
レストランの場所と営業時間と、電話番号を紙に書き込む。実際に書き込んでいるのは、私だが。はなちゃんは、基本隣で命令しているだけである。
電話番号は、適当に、1122(わんわんにゃーにゃー)とかにする。
次は、レストランのメニュー作りだ。
新聞に付いてくるスーパーのチラシの食べ物をハサミで切り抜き糊で紙に貼る。
はなちゃんと2人で、一緒懸命に貼る。軽くここまでで1時間ぐらいかかっている。
そしてメニュー表には、単3乾電池の詰め物とか、みかん、猿とか適当にはなちゃんが書いた。もちろんひらがなだ。
先は長い。まだ開店すらしていない。
ママである妹は、お客様なので、まだ何もする必要がなく、テレビを見てゲラゲラ笑っている。良いなあ、何故私は店員さんなのか?もちろんはなちゃんはレストランの店長だ。
テーブルに、ランチョンマットを敷いてやっと開店だ。
妹が、お客でやってくる。最初は、みんな元気だ。
「これは、乾電池の詰め物でございます」とはなちゃんが接客している。
テーブルに単3乾電池が並ぶ。
その間、私は配達とかお客様への水出しとかいろいろしないといけない。
もうすでに、2時間ぐらい経っている。本物のお茶がしたい。コーヒーが飲みたい。
一応、はなちゃんに聞いてみる。
「すみません、少し休憩して良いですか?」
「ダメー!店員さんがいなくなっちゃう。」
あっさり却下された。
このあと1時間ぐらい経って、やっと本物の昼御飯の時間になる。
はなちゃんに言わせると、「食べてる暇なんかない」ということだが、とりあえずみんなで一緒に昼御飯を食べた。一応はなちゃんに聞いてみる。
「午後もレストランやるんですか?」
はなちゃんが答える。
「やる」
「お昼寝はしないんですか?」
「しない」
一縷の望みが断たれた。頼む、少し寝てくれ。
これから3時間レストランごっこをやって、店員役の私はヘロヘロになり、遂にはなちゃん店長に言ってしまった。
「すみません、労働条件がきついので、首にして頂けないでしょうか?」
「ダメー!店員さんがいなくなっちゃう。」

会社で働いてる方が楽だとこの時つくづく思いました。


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