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【短編小説】星降る夜に

「星降る夜に、あなたに会いたい。一度で良いから、会いたいな。」

私、みことは交通事故で、婚約者を亡くした。

私と彼は高校の天文部で初めて会った。

2人とも高1で16歳だったし、私は初めてできた恋人の拓斗に夢中になった。

拓斗は16歳だったにもかかわらず、年の割には大人びていて、はしゃぎすぎる私をよくたしなめていた。

「何がそんなにおかしいのかな?」拓斗はよくそんな風に言って、ゲラゲラ笑う私をおかしそうに見つめていた。

天文部の活動はもちろん夜だから、夜になってから高校の屋上に天文部の仲間たちと集まるのもドキドキして楽しかった。

少し大人になれた気がした。

冬は寒くて辛かったけど、夏は最高に楽しかった。

夏の生ぬるい風が、私たち全員を包み込んだ。

「ねえ、拓斗たちはいつから付き合っているの?」そう言ってみんなが冷やかしても、拓斗は照れもせず、「高校の入学式からだよ。」と嘘をついた。

「入学式で、本当に可愛い子がいるなあ、と見つめていたらそれがみことだったんだ。」とも言ってくれた。

私と拓斗は、天文部で初めて会ってそれから付き合ったから、彼のこういうセリフは全部嘘だったけれど、私はそう言ってくれる拓斗が本当に好きだった。

優しい人だと思った。

冬の星座、オリオン座のベテルギウス、夏の星座、こと座のベガに見守られ、私たちの天文部での恋愛は順調に進んでいった。

高校を卒業して、お互い大学生、社会人になっても私たちの関係は変わらず、むしろお互いの絆は深くなっていった。

私は社会人になって3年目、27歳で仕事で大きな挫折をした。

初めて会社を辞めたいと思った。

「私、会社辞めるかもしれない。」そう拓斗に言うと、彼は笑って「じゃあ、結婚するか。」と言ってくれた。

「じゃあって何よ。」と私が言うと、「何でもいいじゃん。照れ隠しだよ。」と拓斗が言うので、私

そして涙が出た。

なんで涙が出るのかその時は分からなかったけど、その時が後から考えても一生のうちで1番幸せな時だったからかもしれない。

人生は皮肉で、先の事は誰もわからない。その時はそんなことすら分からなかった。

私と拓斗は婚約した。

横浜で2人でデートをした帰りのことだった。

高速道路で拓斗が運転する車(私は助手席に乗っていた)が、後ろから猛スピードで来た車に追突事故を起こされた。

車は一回転し、拓斗は即死し、私だけが生き残った。

その事故直後のことはよく覚えていない。

私は右腕を骨折し、入院生活を余儀なくされた。

「なんで拓斗だけ死んじゃったんだろう?」私は入院していて、ベッドの中でそればかり思っていた。

入院していたから、拓斗のお葬式にも行けなかった。だから余計彼が亡くなったという実感がなかった。

退院してからも、私は自分の部屋に閉じこもって一日中ぼんやりしていた。

「私の幸せは拓斗とともに消えた。」私はそう思って、よく泣いていた。

あまり食べれないから、どんどん痩せていった。

両親は私の事を心配したけど、それすら鬱陶しかった。

私の人生はもう終わったのと同じだからだ。

本気でそう思っていた。

そんな中、ある晩夢を見た。

夢の中の拓斗と私は高校生で、2人ともちゃんと制服を着ていた。

私たちの卒業した高校の屋上に拓斗はいて、私にこう言った。

「ほら、もうすぐ11月だろう?11月といえば何だっけ?」私は必死に考える。

でも全然思い出せない。

夢の中で拓斗は生きている。でも拓斗は死んじゃった気がするんだけど。

「今年は11月15日ぐらいに来るらしいよ。先に屋上で待っているからね。」

拓斗は笑いながらそう言って、スッと消えてしまった。

目覚めたとき、私は泣いていた。

「しし座流星群だ。」私はそうつぶやき、また号泣してしまった。11月14日の朝のことである。

次の日の11月15日の夜、11時ごろに私は拓斗と私が卒業した高校の屋上にいた。

私以外にも誰か来ているかと思ったが、今の高校は天文部が廃部になっていて、生徒も来ていなかった。

「よく来たね。」振り返ると拓斗がいた。

「君は相変わらず元気そうだね。」拓斗はそう言って笑った。

私は涙でよく拓斗の姿が見えなくなってしまった。

言いたいことはいっぱいあるのに、言葉が全然出てこない。

「どうして死んじゃったの?」私は声を振り絞って聞いた。

「仕方ないんだよ。」拓斗は寂しそうに答えた。

拓斗の頭上に、空からたくさんの星が流れ落ちてくる。

もの凄く明るい光だ。

「もう行かなくちゃ。」拓斗は言う。

「この流星群が終わるまえに、帰らないといけないんだ。」

私は叫んだ。「行かないで!」

拓斗はしっかり私の目を見つめて言った。


「元気でね。」

そのまま、拓斗は消えてしまった。

夜空の流星群の瞬きも消えてしまい、私は屋上に1人暗闇の中に取り残された。

私は泣きながら、家に帰り、そしてぐっすり眠った。

子供の頃味わった、クリスマスイブのような聖なる夜だった。

「拓斗、私は生きていく。2人の運命はこうやって別れてしまったけれど、私は生きていきます。最後に、会いに来てくれてありがとう。またいつか星降る夜に会えるといいなと思っています。本当にありがとう。」


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