2023年8月11日の日記

 しばらく会っていなかった祖父の見舞いに行った。 祖父とは正直、深い関わり合いがこれまでずっと無かった。祖父はちょっと変わったところのある人で、九州の離島の出身でその離島に一軒家をたてて暮らしているのだが、地域の名士であるにもかかわらず伯母(母の姉)にキラキラネームを付けて役所の職員に「本当にこれでいいんですね?」と100回くらい念押しされたことがあるそうだ。
 九州の田舎にしては先進的な考えを持った人で、伯母も母も中学から島から九州本土に下宿させていた。私はそれを当たり前のこととして伯母や母から聞いていたので違和感はなかったが、当時の九州でそれをさせてくれる親は少ないのだと大人になり周りから聞いて知る。

 祖母は私が小学三年生の頃に亡くなった。ということは15年前くらいだろうか。癌……だったような気もするのだが、葬儀にも墓参にも行っていないのでわからない。

 祖父とは定期的に手紙のやり取りをしていて、7月にも葉書を出しだのだが、返事がないのが気になっていた。そこに台風のニュースを見て電話をかけたところ、離島の家の電話線はすでに抜かれているようだった。
 母にきくと、東京の介護施設に入っているらしい。
 伯父夫婦が面倒をみているのだそうだ。
 腰が悪くて入院しているそうで、そこそこ遠いが、微妙に遠くない、という場所にいるので、会いに行くことにした。

 介護施設は清潔で良い印象で、受付で名前を書いて祖父の部屋に案内してもらった。ノックをしたが、恐らく祖父は腰を悪くしているので向こうから開けるのは大変だろう。ドアを開けて「久しぶり」とはいっていくと、祖父がベッドに寝ていた。
 そういえば祖父とはもう10年くらい会っていないのだった。
 東京に来て生活環境が変わったからなのか、腰が悪くて寝てばかりだからなのか、祖父は猛スピードでボケつつあって、なんと最初、私が自分の孫だとわかっていなかった。うまく会話が噛み合わないので妙だなと思い、送った手紙がベッドサイドにあったのでそれを見せて「これが私の送った手紙だよ」と言うとようやく合点がいった様子で、「ああ、最初、じいちゃんは萌絵だとわからなくて、変なことを言ってしまったね」となぜか反省していた。
 祖父と話していると、確実にボケてはいるのだが、ところどころ正気の瞬間があって、こんなことを言ってしまっては不謹慎だが面白い。だって、そう言って謝ってきた直後に「ところで今日の夕食はもう食べたかな」と言い出すのだ。14時台だぞ。

 祖父は聡明な人という印象だったので、人ってこんなに猛スピードでボケるのかという点に衝撃を受けた。
 しかし、ボケつつもやはり私の記憶の中に薄らとある「面白い祖父」は健在で、カバンについているハチワレのぬいぐるみを見て「女の子らしく人形をつけていて、いいですね」と言ってきた。 人形……。

 昨日、ふと思い立ってドラマ「You May Dream」が見直したくなったので、NHKオンデマンドで見たよ。

 これ、地方局制作にしては本当によくできていて、史実に対して多少の脚色はあるのだけど、その脚色によってちゃんと面白くなっているのがすごい。鮎川誠とシーナのボーイ・ミーツ・ガールと、その後のシナロケ結成に繋がるストーリーを描いたドラマなんだけど、サンハウスもシナロケも聞いたことがない人でも充分に楽しめると思う。
 鮎川誠とシーナの出会いと恋愛に関してはほぼ実話ベースなんだけど、実話ベースなのに映画みたいな恋愛しているのでビックリする。だって、ドラマの描写は多少盛っていると思われるとはいえ、出会いが「家に帰りたくなくて博多をふらつき歩いてたら、ダンスホールからヤードバーズが聞こえてきて、店に入ってみるとなんとそこには鮎川誠が!!」なんですよ。最高か! こんな恋愛してみたい!
 鮎川誠に「上京して自分の腕を試してこい」と発破をかけたエピソードで有名なシーナのお父さん役を松重豊が演じていて、これがなかなか味わい深くていいですね。めちゃくちゃ厳しいのかと思いきや突然めちゃくちゃ優しい。いい人すぎ。
 そう、このドラマ基本的に「いい人」しか出てこないんですよね。(最初に出てくる高校教師と、水撒いて追っかけのギャルを追い払うライブハウスの店員以外は)シーナのお父さんも厳しいけどいい人だし、お母さんは終始優しすぎるし、ブルース講座のシーンで出てくる「女にブルースなんかわかるかっ」とツッパっている常連客たちも次のカットでシーナの書いた批評文を読んですぐ褒め始める。(そしてサンハウスの熱狂的ファンになっている……w)鮎川誠を下宿させている叔母さんも、夜に女の子を連れてきても嬉しそうにしているし。
 なんだろう、全体を通して、シナロケの音楽から伝わってくる底抜けなパワーとか、ハッピーな雰囲気ってこういうところに由来があるのかな、と思いながら再見した。
<おわり>

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