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2020/12/13 LAMP IN TERREN ワンマンツアー『Progress Report』@恵比寿LIQUIDROOM

ステージに1人現れた大さんに、スポットライトが降り注いでいる。
静まり返ったLIQUIDROOMに、ピアノの音だけが響いた。

"Fragile"が1曲目という、この緊張感が堪らなく好きだ。
ステージに配置されたブラウン管を背景に、くっきりと浮かび上がる大さんの横顔のシルエットを見て、「ああ、確かにそこにいる」と思った。会いたかった人が、ちゃんと目の前にいる。
こちらがお金と時間さえ工面すれば、当たり前に会えると思い込んでいた。それが許されなくなった今の世の中は随分異常に見えるけれど、今が特別異常なわけじゃない。この世はずっと異常だった。『FRAGILE』というアルバムを通して教えてもらったことだ。でも、もう痛いほど分かったから、早くこの悪夢から覚めさせてほしい。

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息を吐く間も無く、すぐに聞こえてきた"宇宙船六畳間号"の同期音。音源とは違い、ライブでは1番の途中から入ってくるドラムが、この曲を前へと動かしていく。だけど1サビの"宇宙に放り出された"ような空気感は、ライブでもそのままに。

「こんばんはLAMP IN TERRENです!!」

大さんが叫ぶ。お馴染みの挨拶に、最高の日の幕開けを予感して、高揚する。
大さんの姿が前方のおにいさんの頭でずっと隠れてしまっていたので、ギターソロで前に出てきた時に、やっとその姿をはっきりと捉えることができた。その瞬間「今、生身のLAMP IN TERRENと同じ空間にいるんだ」とようやく実感することができた。整理番号はそんなに良くなかったけれど、ステージが想像していたよりも近く感じた。

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続く"heartbeat"。心の奥底まで深く沈み込むような、静かな導入。燃えるような赤と、冴え渡る青、2色の照明がとても美しかった。
"heartbeat"のベースラインと、胸をトントンと叩く健仁さんが好きすぎるので、この曲の間はほとんど目が離せなくなってしまうのが通例。とても楽しそうに、ずっとニコニコ演奏していた。
私がライブで初めてこの曲を聴いた日に、大さんが「想いを重ねて脈を打つ」で両手を重ねて胸を叩いていたのをよく覚えている。だからそこのパートは必ず大さんを見るようにしているのだけれど、この日も片手ではあるがその時と同じように胸を叩いていてなんだか嬉しかった。

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大「改めましてこんばんはLAMP IN TERRENです!ツアーファイナル〜!✊イェー!✊声があんまり出せないと思うんで、身振り手振りで表現してくださいね皆さん。ツアーファイナル〜!✊」
客「(無言)✊✊✊✊✊」
大「カオスw」

「え〜全国20本回ってきて、こんな時期にね、20本やるバンドなんか俺らぐらいしかいなかったですけど。最高のツアーでした。だから今日最高で締め括らないと終われません!でライブっていうのはね、4人で作っていくものじゃないので、ここ恵比寿LIQUIDROOMに集まった皆さん、プラス今日は配信もあったりしてね。配信の先にいる人も、画面越しに僕らのライブを観てくれてる人もいるので、その人たち含め全員で最高のライブを作っていきたいと思います。最後までどうぞよろしくお願いします!」
「ちなみにLAMP IN TERRENのライブ今日初めて来ましたよっていう人!✋お、意外にも少ない。初めまして、LAMP IN TERRENですどうぞよろしくお願いします。じゃあこの『Progress Report』というツアー今日が初めてだよっていう人✋あ、それ結構いるのね。ありがとう!嬉しいです!よろしく!何回も来たことあるよ、とか、他のところに行ったよ!なんて人いると思いますけど、手挙げるとなんかちょっとねあの、嫌な目線で見られる可能性があるんで。地方行ったんかお前!みたいな感じのことを、ね、思われるかもしれないから。ま渋谷2回やってますからね。渋谷に来てくれた人とか千葉に来てくれた人とかいるかもしれないですけど。いつも本当にありがとう。全員で最高のライブ作りたいです最後までどうぞよろしくお願いします!」
「ちゅーわけで、俺たち20本もね、この時期にツアー回ったっつーことで、だいぶね、人間的に進化した部分、退化した部分あると思いますけど、まだ誰も知らない、僕ら4人でこのステージに来たと思ってます。だから何度でもこの言葉を使っていきたいと思います。初めまして、LAMP IN TERRENです。どうぞ、最後までよろしくお願いします」

大さんが「初めまして」と言う度に、"Enchanté"がどういう想いで作られた曲だったのかを思い出すことができる。変わり続けていく人や世界を止められないのはとても悲しいことだけど、この曲のおかげでそういうのも少しだけ前向きに受け止めることができる気がする。
サビで手を挙げている人の方に目をやって、嬉しそうに微笑む健仁さんを眺めていたら、私もマスクの下でつられてニコニコしてしまった。
ステージ上のブラウン管には、大さんが撮った写真が映し出されていた。やっぱりこの曲には、雲一つない青空がよく似合う。

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イントロの同期音に合わせて、急くように雲が流れ、空が翳る。私が思い描いた通りの景色が、ブラウン管の箱の中で展開されていた。
"Beautiful"は本当にライブ映えする曲だ。昔は会場が一体となって、みんなでワーッと盛り上がれるようなものが、所謂ライブ映えする曲だと思っていた。でもこの曲をライブで聴いて、その考えは完全に覆された。圧倒される、という言葉はこういう時に使われるべきだと思う。
私はいつもライブレポートを書くために、感じ取ったことをその都度言葉に変換しながらライブを観ているのだが、"Beautiful"の時はそれができない。思考を奪われてしまう。だから言葉に直せなくて、毎回この曲でペンが止まってしまう。

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雷が去った後の静けさから、ふわふわとしたギターやシンバルの音で空間が広がっていく。
"balloon"の時は、目も耳もベースラインに吸い寄せられてしまうという前回(10/26渋谷公演)の反省を活かして、この日は半ば無理矢理ベース以外を見聞きするようにしていた。それでも半分以上はベースに意識を持っていかれていた気がするけれど。
間奏ではギターの2人にだけスポットライトが当たり、真ちゃんが時々大さんの方を見ながら、呼吸を読み合うようにギターを奏でる。真ちゃんと大さんが2人で奏でるギターフレーズは、まるで会話をしているかのような、気心の知れた穏やかさがある。

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"風と船"の真ちゃんのギターは、とても優しくてホッとする。真ちゃんのギターと、大喜さんのドラムロールが溶け合っていく感じも好きです。
大さんが1人で作って蓋をして、人知れず埃を被っていたものを、3人が拾い上げて、綺麗にして見せてくれた。ひとりぼっちだったこの曲を、掬ってくれてありがとう。
「『FRAGILE』の中では"風と船"が1番好き」と言った誰かのことを思い浮かべながら聴いてしまっていたことは許してもらいたい。

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大さんのアカペラから始まった"BABY STEP"。
そういえばLIQUIDROOMで最後にテレンを観たのはBABY STEPツアーだったなあ、なんて不意に思い出す。1年9ヶ月の時を経て、ツアーファイナルで同じ会場に戻ってきた彼らに、あの日の姿を重ねた。自分を見つめ、自分を好きになる強さを手に入れた大さんは、今では「自分を見つめなくていいよ」と言える優しさを手に、そのための歌を歌っている。
"BABY STEP"の時に、真ちゃんがすっげーーいい顔してたのが目に焼き付いてる。最近の真ちゃんは特に、演奏に感情を乗せるのがとても上手だと思う。

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健「えー改めましてどうもこんばんはLAMP IN TERRENでーす!今日は来てくれて本当にどうもありがとーう!」
真「ありがとう!」
健「ファイナルですよ、いよいよ」
真「いやーなんかここまで感無量になるツアーも珍しいよね。珍しいっちゅうかまあ、ね。ようできたなあって」
健「いや本当だよ!俺ら今日20本目だから19本はやってきてんのよ。いろんなところに行ってね」
大「怪我人も病人も出さずにね」
健「そう!いやもう、本当に楽しいツアーでした。あのーいろいろありましたよね。まず1本目千葉LOOK、」
真「あ、なんかそういう感じ?1本ずつ20本…」
健「あいやいやいやいやそんな尺はない。きっとそんな尺はない。1本目の時に"Fragile"のコーラスあるじゃないですか、サビで」
大「練習したやつね」
健「これをもうひたすら4人で円になって練習するっていう。ツアーの1本目ですよ。始まってんですよもう」
大「始まろうって日にねw」
健「事前にやっとけよっていうw まあでもどうでした今日の"Fragile"(客👏👏👏)あよかったw ありがとうございます。真ちゃんは?なんか思い出に残ってることとかあります?」
真「思い出?いやなんかトラブルってこう、やっぱ良くも悪くも思い出に残ってしまうんですけど、俺はねあのー高松の前日かな?当日やったっけ?あのー淡路島のパーキングで、財布を落としてしまいまして。結構ね、大変だったんですよねw 健仁にもね、だいぶ手伝ってもらったりして」
健「そう俺ジャンケンで負けたから、真ちゃん免許ないから」
真「で無事にね、戻ってきたんですよ」
大「無事にね。3万円入ってたしね、ちゃんとね」
真「そう。なんかねー、よりによってそんな大金ば入れとる時にね……www」
大「俺たちは真ちゃんのおかげでもうあの、無人のパーキングエリアでトイレしかないとこだったんだけど、対岸の方(上りと下りのメンバーがいた方と逆側)にですね、たまねぎ売ってるみたいなところがあってですね、そこでずっと「淡路島〜たまねぎ〜(たまねぎ〜)淡路島〜たまねぎ〜(たまねぎ〜)」って鳴り続けてんの。誰もいないのに!それカオスでもうそればっかり耳に残っちゃって、真ちゃんの財布事件のせいでよりなんか…淡路島たまねぎ!?みたいな、たまねぎ3万円で買ってきたの?真ちゃんみたいなね、離れなくなっちゃいました。俺家で聞いたんだからあの後帰ってから」
健「CM効果バッチリだねw 大喜は?」
喜「う〜〜ん……結構平和だったからね。まあでも強いて言うなら、ドッキリ仕掛けたくらいかな。メンバーに」
大「アンコールをやらない前提で、もう本当にセットリストに魂を注ぎ込んで、みんな納得して帰ってくれる日は来るか来ないかみたいなのをツアー始まる前に俺らやってて、まあ誰1人として帰らなかったというか、しっかり全公演アンコール求められてきたんだけど(健「ありがとうございます」)ありがとうございますw それでアンコールやらない前提だから決めてなくって、当日アンコール来たら決めようみたいな、ステージに上がってから決めて、グダグダアンコールをやるみたいなのがあったんすけど、それで「今日はあれやろうぜ〜」って4人で決めといて、いざ曲が始まると全然違う曲をやるっていう」
真「俺と健仁が裏切られたんよ。2人に」
喜「まあでもさ、こんだけ長いこと一緒におってさ、メンバーにドッキリをかけるってやったことなかったやん。あのーほんっとに、ほんっっとに申し訳ないけど、まじで楽しいね。人を騙すって」
大「寝起きドッキリとかやりたいよね」
喜「やりたいよね〜」
健「あーやってみたいね〜」
真「YouTuberの見過ぎやってw」
喜「まあでもさ、大もさ、大はあれじゃん。旭川でさ、腰が砕けちゃったっていう事件」
大「あー腰がね」
健「ぎっくり疑惑ね」
大「ぎっくり疑惑ね。立てなかったんだから本当に。旭川で。28ってもう歳なのかなって思って、健康に気をつけようっていうのをね、すっごい思いました。何回も身体鍛えようと思っては「あーもうめんどくせーや」っていうのを繰り返してきたんだけど、いよいよちゃんと鍛えないといけないって思った」
喜「俺個人的にちょっとごめん、ツボっちゃったのがさ、申し訳ないんだけど、大の腰がグシャァって砕けたのが、まあライブ中もちょっと痛かったらしいんだけど、最後に、もう本当に旭川公演も最高で、大がお客さんに思いっきり最後手を振ってる時に砕けたらしいのよ」
大「今日はありがとうございましたー!!!つってバキィ!!!ってw」

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喜「あのタイミングでよかったね」
大「あのタイミングでよかった。あれからもう一回アンコール出なきゃいけなかったら俺は死んでたと思う」
喜「裏行ってやばかったもんね。ひたすら四つん這いになってたもんね」
大「もうずっとこんな感じだった」

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喜「笑っちゃいけないんだろうけどすっげー笑っちゃった」
大「真ちゃんとか寝そべって俺にカメラ向けてきて写真撮ってたから」
真「これはもう収めんといかん!って思って」
喜「大ごめん!と思いつつ」
健「そうねw まあなんかそんな模様がファンクラブのコンテンツに上がったりする可能性あるので。さっきの大喜のドッキリとかもね、上がってるんで」
喜「もう既に俺が動画で上げちゃってるからね」
大「燈會街っていうファンクラブができたんですけど、今日はもうアンコールでその話しないっていうことにしたんでね。今ここで喋ったってことね?宣伝上手ねえ!」
健「あーそうでしょうそうでしょう!燈會街よろしくお願いします!」👏👏👏

大「しかし誰もこのブラウン管に触れんね?MCで。何自然に置いてあるもんだと思ってたの?」
喜「違う違う違うそんなことないやん!そこはあのぉ、この順番で行くと大が最後に言うんかなみたいな?」
大「置いてみました、どう?」👏👏👏
喜「俺意外とね、見てるからねやりながら」
大「あ、そうなの?」
喜「そうだよ。普通にあのー、家でテレビ見てる感じで」
大「www 次はどの曲で光るか」
喜「あ、そっか全曲じゃないもんね」
大「全曲は無理だった!1人でやってんだもん!そう俺作ったんだけど映像」👏👏👏
大「この後もお楽しみに!」

大「これ(マイクのコード)やべーなめっちゃ足引っかかっかもんしんねえ。はい。調子どうすか?皆さん。なんかなんとなーく手を挙げづらい雰囲気とかっていうのはね、もう20本もやってくればね、わかる。久しぶりのライブだーっていう感じに、なんかその空気感?めっちゃひしひしと伝わってきて「ここ手挙げていいのかなあ?」とか「挙げちゃダメなのかな?」みたいな、なんかちょっとライブにビクビクしてる感じっていうのは、皆さんからちょいちょい感じたりします。緊張してますか?なんかドキドキ、するよね。ドキドキするよね。俺らのライブってドキドキすんだよねなんか。俺らが未熟者だから安心できねーのよみんな。大人の包容力大事やから。28にもなれば。な?だから大人の包容力をここから見せていきますよ。好きに手挙げたり、体揺らしたり、しててほしいです。で、いい演奏したら拍手をたくさんください。よろしくお願いします」

大さんの「どうぞ」の合図で、次の曲のイントロが聞こえてくる。
「では〜折り返し地点で〜す。楽しんでいこうね〜恵比寿LIQUIDROOM!!!」

みんな大好き、バンドアレンジver.の"おまじない"。「お客さんの方照らしてもらっていいっすかー!」と客席まで明るくしてくれたのが、私たちを曲の中の"君"にしてくれているようで嬉しかった。ステージを端から端まで歩き回り、一人一人の顔を見て歌う大さん。
「お気に入りの靴を履く日は……今日は、いいツアーファイナル日和ですねー!」
結局このツアー中、雨が降った日はほとんどなかったんじゃないかな。
「そんな日に心から望む姿で恵比寿で歌っている」

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"おまじない"の最後のスネアの音を、大さんが見つめて待ち構える。間髪入れずに奏でたピアノの音から始まる"チョコレート"。
真ちゃんのアコギの音が大好きだ、と何度でも言いたい。真ちゃんが弾くからこんなに好きなんだ。どうしてそんなに優しい音を鳴らせるの。アコギの曲、もっと増えないかなあ。
私にとってこの曲は、大切な人に歩み寄るきっかけをくれた曲。最初は上手く感情移入できなかったけれど、今では自分ごととして聴けるようになった。その話は、また別のところでできたらなと思います。

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大さんのピアノで"ベランダ"に繋がる。
ブラウン管の映像が歌詞と合っていてとても好きでした。夜の中を流れていく車の光、雨粒で濡れた窓、星空のギターソロ。歌詞でも音でも、景色の描写がとても鮮やかな曲。
目を閉じて、曲に寄り添うように優しいドラムを叩く大喜さん。決して派手ではなく、繊細さを兼ね備えている、そういう大喜さんのドラムが好きです。
ラストに向けて、大さんの高音が伸びていく。どこまでも真っ直ぐに伸びるその歌声が、フロア中に響き渡っていた。

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「ただの人間です。音楽を選んだだけの、ただの、人間です。だから、できないことがたくさんあるし、音楽しかできない。いや、音楽すらできてないのかもしれないとか、なんとかかんとか、思いながら、生きてる。まだ足りないなーとか、なんでこう自分が思った通りのことができないんだろう。なんで自分ってこの程度なんだろうって思いながら、生きてる節がまだある。まだあるけど、もう隠れて背伸びはしてない。背伸びする時はもう、見栄張って思いっきり背伸びしてるような、そんな感じ。
たまたま音楽を選んで、たまたまこのステージの上に立ってて、楽しいなって思いながら、歌いたいなって思いながらここまで来たけれど、ここまで来たけれど。例えば音楽じゃなかったとしても、俺はすごい、孤独が嫌です。ひとりぼっちが嫌です。誰かと生きていきたいなって、思う。ひとりぼっちで生きていたくないなって思う。そこに音楽があったから、この方法を使って、歌を歌ってます。
ただの人間です。
だけど俺はステージの上にいる。みんなお金払って今日ライブ観に来てくれてる。求めてもらってる。いや違うんです。求めてるのは俺なんです。もっとたくさんの人と出会いたい。そしてなんか、音楽で繋がって、より生きていてよかったなって思いたい。生きてんの楽しいなって少しでも思えるように、一生懸命苦しみたい。ああでもないこうでもない。足りない。欠けてんな。思い通りいかねえな。とかなんとか思いながら、それでも、誰かと生きて、音楽で繋がって、少しでも。未来のためじゃない。過去がどうとかじゃない。今この瞬間が、楽しいって言えるだけでいい。それの連続でいい。
歌ってんのはね、別に気持ち良くないよ。うわ辛えなって思いながら歌ってる時ある。苦しい!って思いながら歌ってる時ある。でも、それが最高に繋がるんだったら、みんなに感動してもらえるんだったら、少しでも深くまで、あなたの心に辿り着けるなら、俺はどんだけ苦しくてもいい」

"いつものこと"の前のMCを聞いて、思い出したライブがある。大さんの28歳の誕生日に、CLUB251にて無観客で開催された『Stereotype』。「死に損ねたので」と話していたあの日の大さんは、何かの拍子に不意にいなくなってしまいそうな危うさを纏っていて、私はそれが不安だった。まだ届いてない、もっと愛してるよって伝えなくちゃ。その一心で、私も苦しみながら筆を取り、ここに書き残してきた。
大さんは変わったように見える。今の大さんは、前よりも愛される準備ができているように見える、気がする。
寂しがりやで愛されたがりの大さんと、私も似たところがあると思う。だって同じ人間だから。
音楽を手に取ってくれて、歌を歌っていてくれてありがとう。

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"いつものこと"の余韻を吹き飛ばすように始まる"ワーカホリック"。日常から日常へ梯子するようなセットリストだ。
この曲を演奏している時は、やたらと楽しそうな健仁さんを観ることができる。いや他に言い方ないんかって感じだけど、「一体何がそんなに楽しいのか」と思うくらいずーーーっと笑顔だった。演奏するのが嬉しくって、楽しくって堪らないみたいに。この曲が心から好きで好きで堪らないみたいに。
健仁さんの笑顔を眺めていると、いつもなら私もつられて笑顔になってしまうところなのだが、この日はどういうわけか涙が溢れて止まらなかった。健仁さんが楽しそうで嬉しかったから?違うな。楽しそうなのが羨ましかったから?これも違う。悲しかった?寂しかった?どれも当てはまらない。書き進めているうちに答えが見つかるかと思っていたのだけれど、結局今も自分のことがわからないままだ。

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「ちょーっと盛り上がっていきますよ。ついて来れますか恵比寿LIQUIDROOM!」

いつまでもメソメソ泣いているわけにはいかない。次は私の大好きな"ホワイトライクミー"だよ!
サビ前の大さんの「いくよ」と同時にフロアを指差す健仁さんに撃ち抜かれる。サビの爆発力と、待っていましたと言わんばかりに上がるいくつもの掌、拳。私の好きな景色。
この曲のベースラインが本当にかっこよくて大好きで、柔らかい表情で微笑んでいる健仁さんを眺めていると、私の泣きたい気持ちも次第に解けていった。
大さんから「君は綺麗 君が好き」なんて歌われた日には「もうほとんど愛の告白と同じじゃないか」と思ったりしながら、ここの歌詞変を毎回楽しみにしている。

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ブラウン管に「LAMP IN TERREN」の文字。配信のアーカイブで観てみたら、ネオンサインがたくさん浮かんでいるみたいで、ちょっと不思議な光景だった。
優しい曲が多かった今ツアーのセットリストだったけれど、バチバチに熱を帯びた"New Clothes"を終盤に持ってくるなんて、ずるいな。流石にかっこよすぎやしませんか?
真ちゃんの長い髪、振り乱し甲斐がありそうだ。ギターのアレンジがこの日も最高でした。
革ジャンの袖で汗を拭う健仁さんが絵になりすぎていて、さっきまでニコニコ笑っていたのにそのギャップはなんなんですか、と言いたくなる。汗を拭うだけでそんなにかっこいい人、見たことないですよ。

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今回のツアーで唯一の日替わり曲。10月のStar loungeでは"涙星群の夜"だったけれど、この日は"Water Lily"だった。
先程までの熱量は何処へやら、水底にトプン、と落ちたみたいに温度が変わる。
「なぜか嬉しくて笑ってしまう」と微笑みながら、歌声も少しだけ笑っていた大さんは、まるで曲が憑依したみたいだ。
オンタイムより少しだけ食い気味に飛び込んできた真ちゃんのギターソロは、澄み渡っていてとても美しい。いつもの大さんだったら、ギターソロの間はステージ上を踊るように歩き回るのに、この日はその場で目を閉じて聴き入っているように見えた。

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「今日はありがとうございました」
「俺はねー、いろいろ、あ、めんどくさいなって思うことたくさんあったけど、この時期に止まんなくてよかったなって思ってます。まあライブがたくさん飛んで、ツアーもできるかどうかわかんない状況もあったりして、ツアー始まってからも、どこそこでは何人出ましたーとか、いやーこんな時期に本当に回っていいのかなーって、思いながら回ってたんだけど。けど俺の、俺個人の見えてる世界の話をしますけど、ツアー20本どこに行っても、「ありがとう」って言われた。この時期に回ってくれて。それはお客さんにも、ライブハウスの人にも、あとは道行く知らない人にも。「東京の人?こんな時期に来てくれてありがとね」って言われたりして、回ってきました。僕が見えてる世界の外から、もしかしたら攻撃されたりする時もあるのかもしれないけど、少なくとも見えてる世界、俺が見てきた世界はそういう感じでした。それどうなるかわかんないからビビってライブできないってなる選択肢もなくはなかったけど、でも多分ねー、そんなに経験できることじゃないんだよ、この時期って。こんな時期って。で俺はさっきも言ったけど、今が楽しくありたい。どんだけ辛くっても。だから、楽しみたいからツアーをやった。
来れなかった人もいます。配信で今観てる人がたくさんいるのを知ってます。聞こえてますか?いつもはね、19本オフマイクで、マイク持たずに \こうやって喋ってたんだけど/ 今日はそれじゃ届かないから。マイク持ってますけど、聞こえますか?ボリュームめっちゃ上げてるかもしんない。
そんなこんなで、こんな状況多分一生に一度ぐらいしかないかもしれないから、あーこれはこれでありなんじゃねえかって思えるぐらいのものをやりたいと思って回った。その結果、たくさんありがとうをもらった。けどやっぱり俺らの方がありがとうなのよ。だって音楽作って、聴いてもらわないと、ライブができないと、これが仕事になってる俺たちは食いっぱぐれちゃうから。リアルな話をすると。だけどだからこそ、衣食住のどれでもない音楽だけど、それでも必要だと思ってもらえるぐらいのものを全力でやりたいと思ってここまで回ってきました。だから、もう今までにないぐらいの、感謝の気持ちです。全20公演いろんな会場遊びに来てくれた人、配信で今観てる人、俺たちの音楽を求めてくれる人聴いてくれた人出会ってくれた人、勇気出してここに遊びに来てくれた人。本当にどうもありがとうございます!」

「今後、どんな世界になってくのかまだ全然、俺そんな頭良くねーし想像するの上手じゃないし、妄想は上手だけど想像は上手じゃないから、今後どうなってくかどういう風に変わっていくかとか全然わかんないけどそれでも、少なくとも今出せる最大風速で生きていきたいなと思う。今しかないと思って生きていたいと思う。だから、このステージでくたばってもいいぐらいの気持ちで、歌を歌ってる。そのぐらいの気持ちがある。もうだから、そういうふうになったね。このツアーを回り始めて、なんで自分て音楽選んだんだろう。こんな状況で歌う意味あるのかなって考えたけど、やっぱ、結局俺の我儘だった。誰かと生きていきたいと思った。誰かと繋がりたいと思った。その手段に音楽を使ってる。俺が誰かと生きていこうと思ったらそれしか手段がなかった。
だから、たとえ我儘でも、これからも全力で使っていきます。だから、それが皆さんの胸を打つぐらい、熱くなれるぐらい、感動できるぐらいのものでありたいと思う。あり続けたいと思う。そのために死に物狂いで歌う。俺はこんな感じで生きてる。選ぶのは自由。今日が何かのきっかけになってまた、この瞬間から頑張りたいと思える力になればいいなと思いつつ、けどやっぱり、俺の我儘で、もっとたくさんの人を巻き込んで、いきたいと思う。たくさんありがとうをもらったし、たくさん求めてもらったし、ああ、こんな俺でも価値あるかなとか、やる意味あるかなとか、すっげー思えたから。だから、裂けるぐらい、死に物狂いで歌って帰ります。今日はありがとうございました」

大さんが我儘で音楽をやっていると言うのなら、私がテレンの音楽を求めるのも私の我儘だ。
私たちは我儘と我儘で互いを求め合い、手を取り合って生きている。

「これいい演奏だったらたくさん拍手もらって帰んだ」

そう言った大さんは、やっぱりどこかこどもみたいだった。

"EYE"

この日、ライブに行くことを選んだ私の足には、ずっと自責の念のようなものが絡み付いていた。「お前の選択は間違っている」と自分を責める自分。大切な人の心が離れていったのは、正しく在ることができなかった自分のせい。悪いことをしているような後ろめたさ。ライブ中、事あるごとにそういう考えが脳裏を掠めて、気付かないようにするなんてできなかった。

例えば 間違いだらけでもいい

涙が溢れた。テレンはどんな時でも、ここに来ることを選んだ私を肯定してくれる。それにもう何度救われたかわからない。流石に開き直ることはできなかったけれど、自分のことを少しだけ許してやれた気がした。
ライブ前日のキャスで「今、歌力みたいなものにはかなり自信がある」と話していた大さん。"裂けるぐらい、死に物狂いで"という言葉通り、本当に壊れてしまいそうな歌い方をする大さんに、ちょっとだけハラハラした。「明日死んでもいいってぐらい、毎回全力でライブしてる」と話していた日のことを覚えている。いつかまたみんなで歌ってもよくなる日が来たら、その時は私の全力を聴いてよ。

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「今日はありがとうございましたLAMP IN TERRENでした!またお会いしましょう。生きてまた会いましょう。またね」

観客に「ありがとう」と叫んで、ステージを後にするメンバー。
アンコールを求める手拍子は、やっぱりこの日も鳴り止まなかった。

「アンコールありがとー」と再びステージに舞い戻る大さんと、その後に続く3人。
着替えてきたグッズのTシャツを見せびらかす健仁さんがとてもキュートでした。

大「やっぱ要るんだね今日もね。アンコール必要?(客👏👏👏)これ配信もアンコール流れてるの?」
健「どうなんすかね?」
大「流れてる?流れてるっぽい。なーんだよちゃんと演奏しなきゃいけないじゃんかよ〜。いやそら、いつだって当たり前かもしれんけど」

「よしいくぞ」と言い終わらないうちに、ギターをジャーーンと搔き鳴らす。

「はーいじゃあ、よろしく」

アンコール1曲目、"ほむらの果て"で全てを燃やし尽くしにかかる。
健仁さんが脚をガッて開いて、頭ブンブン振りながらベース弾くの最高なんだよな。私もこの曲の時は、つい同じように頭を振ってしまう。
世が世なら『FRAGILE』みたいな優しいアルバムではなく、完全にロックに振り切ったアルバムが生まれていたかもしれないらしい。10月のStar lounge公演では「次はゴリゴリのやつ作る」と断言していた。振り幅が凄すぎて目が回りそうなのに、毎回ストライクゾーンど真ん中ぶち抜いてくるのはなんなんでしょうか。
次は一体どんなテレンに会えるんだろう。今からすごくわくわくしてる。

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大「これあれだな、このまま最後の曲に行くの無理だ」(上手袖にギターを要求)
健「……なんかやんの?」
大「いっぺん盛り上がっとかんといかんわ」
喜「今日はあのーちょっとね、結構ね、いつもと違って……」(大さんが歩み寄って作戦会議)
健「ちょ待ってちょ待ってちょ待ってちょ待って、真ちゃん真ちゃん真ちゃん、真ちゃんやべーよ。なんかやってたよ?今」
真「なに?」
大「(真ちゃんと健仁さんに手招き)」
健「ああ……(ホッ)」

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健「仲間外れにされなくてよかったわ」
大「今日はちゃんとアンコールやるよ?」
健「おん。よかったよかった……」
(ツアーを経て疑心暗鬼になるメンバーの皆さん)

「2曲の間にスタッフに止められなければいいなと思います、あと2曲やりまーす。本当はあと1曲だったんだけどあと2曲やるわ」
アンコールを求める我々と、アンコールを1曲増やしちゃう大さんと、帰りたがらないのはどっちなのか。

「他人に迷惑がかからない程度にお好きにどうぞ」

大さんが「愛してるぞお前ら!」と頻繁に言ってくれるようになったのは、"オーバーフロー"という曲が出来てからかもしれない。
ドラムを叩く大喜さんの無邪気な笑顔が、キラッキラで眩しい。
健仁さんが「オイ!オイ!」と煽りながら「いいじゃん!」と褒めてくれたのが嬉しかった。声は出せなかったけれど、千切れそうなくらい振り上げた拳で、ちゃんと届けられていただろうか。本当は健仁さんみたいに、なりふり構わず顔をクシャクシャにして歌いたかったし、「愛されたい」って叫びたかったよ。

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"オーバーフロー"の余韻の中から、聴き慣れた同期音が聞こえてきた。

「ほいじゃあ皆さんまた会う日まで、最後にいっちょ踊り狂っときますかー!」

禁止令が敷かれていたはずの"地球儀"が、ツアーファイナルにして完全に解禁された。
「空想の中に建てるガラクタの街ここ……あ!」
出だしからいきなり歌詞を間違えてポカーンとする大さん。せっかく歌詞を飛ばさずにここまできたのに、最後の最後でLIQUIDROOMの魔物が顔を出しましたねw

「コロナ期間最大のジャンプ!」

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「皆さん帰ったら手洗いうがいをしっかりしますようによろしくお願いしますねー!なので!この瞬間だけは!大盛り上がりすることを!後で怒られるかもしれないけど俺が許すーー!!!」

マスクが苦しくて煩わしい。意地でも止まってなるものかと、今にも攣りそうな脚に鞭を打って跳び続けた。
私が自由になれるのは、やっぱりライブハウスだけだ。

「最高、最高、最高、最高!出会えてよかったです本当にどうもありがとう!」
「お前ら全員に拍手!」

「今日はありがとうございましたLAMP IN TERRENでした!まじ頼むな!風邪とかひくなよ。健康に過ごせよ。生きろよ!生きた先でまた会おうな!俺らももっといいバンドになって、君たちの目の前に現れるわ。本当にどうもありがとうございました。最高。愛してるぞ!」


大変な時期に、それでも歩みを止めることなく続けてきたテレンの旅は、この日最高で締め括って終わりを迎えた。
いつの日かまた新しく旅を始めるその時は、澄みきった絶好のツアー日和でありますように。

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1. Fragile
2. 宇宙船六畳間号
3. heartbeat
4. Enchanté
5. Beautiful
6. balloon
7. 風と船
8. BABY STEP
9. おまじない
10. チョコレート
11. ベランダ
12. いつものこと
13. ワーカホリック
14. ホワイトライクミー
15. New Clothes
16. Water Lily
17. EYE
en1. ほむらの果て
en2. オーバーフロー
en3. 地球儀