ロックバンドを組んだんだ。

ココロオークション 「VIVI」リリースツアー 代官山UNIT
2019年6月27日
(※2022年3月31日をもってサービス終了した「音楽文」に投稿した文章の再掲です)


6月21日、夜7時。既に開演時間だというのに、私はまだ特急電車に揺られていた。
週の最後の業務を終え、そそくさと職場を後にして、服もそのままに車で30分以上かかる最寄駅へ向かう。隣県から特急に乗って、目指すは代官山UNIT。持参したグッズはメンバーのサインが入ったトートバッグだけだ。

見慣れない駅で降りて、マップを見ながら何度もシミュレートした道を走る。息を切らしながら入口でチケットを差し出し、「いってらっしゃいませ」というおにいさんの声に送り出され、建物の中へ。階段を駆け下りながら聴こえてきたのは、私の大好きな“蝉時雨”だ。早く、早く、たった数十段を駆け下りる時間すら煩わしい。
そっと開いた扉の向こうには、会いたかった彼らの姿と、ゆったりとその音楽に身を任せるお客さんの後ろ姿。いつもどおり、ココロオークションのライブの優しい空間が広がっていた。

ココロオークションのライブはその音楽性からか、大人しくて穏やかそうなお客さんが多い印象。“なみだ”でハンドマイクに持ち替えたVo.&Gt.粟子真行が観客を煽るも、なかなか手が挙がらず、皆周りの様子を窺っていたのだろうか。私もその1人。しかし、イカしたサングラスをかけて、踊るように自由に音楽を楽しむメンバーを観ていると、不思議とこちらも自由になれた。Cメロからはたくさんの手が挙がっていた。

尺をたっぷり使ったメンバーそれぞれによるMCの後は、新旧織り交ぜたアップテンポな曲たちが並ぶ。私が手を挙げたり手拍子をしたりすると、それに続くように隣のおねえさんの手が動いていて、なんだか嬉しくなった。

薄暗く静まり返ったステージで、オレンジ色のスポットライトに照らされた粟子が

『今の気持ちにはこの色が似合う』

と歌い出したのは“Orange”。
これは余談だが、「ココロオークションの曲で何が一番好き?」と尋ねられたら、全部好きなのは大前提としつつも、私は迷わず“Orange”と答える。私が初めてココロオークションのライブを観たのは、2017年のTOKYO CALLING。当時はYouTubeに動画がアップされているようなリード曲しか知らない状態で、そのライブで初めて“Orange”を聴き、私は泣いたのだ。優しいメロディに乗せたメンバー全員によるコーラスがとても熱かった。私とココロオークションの歴史は、これが始まりだったように思う。
この曲を聴く度に、私は何度だってこの素敵な出会いを思い出すのだろう。色鮮やかな毎日を、届けてくれてありがとう。

そして最後の曲を前に粟子が語り始めたのは、彼の昔話だった。

「小さい頃は身体が弱くて入院ばっかしてて、寂しくならないように歌を歌ってて、そしたら歌うことが好きになってた」
「身体が弱い自分が嫌いだったけど、だから今こうやって歌えてるんじゃないかって思えるようになった」

私は、粟子がいつかのMCで「自分は寂しがりやだから音楽をやっているんだと思う」と話していたのを聞いたことがある。私は、“粟子さんが寂しがりやでよかった”なんて酷いことを考えてしまう、酷い奴だけど、彼が、彼の歌がこんなに優しいのは、彼の嫌いだった少年時代があったからだと思うから。そんな貴方でなければ、きっと私は出会えなかったと思うから。私が知らなかった昔の彼も全部ひっくるめて、「愛おしいな」と思う。

「ココロオークションの曲の中には一人一人の君が居ます」
という言葉から演奏された“タイムレター”は、たった今粟子の口から語られた昔話が、そのまま歌詞になったような曲。ずっと「これは粟子さん自身のことを歌った曲だ」と思いながら聴いてきたのに、この日は私のために歌われた曲みたいに聴こえたのだ。そしてそれはきっと勘違いではなかったはずだ。

久しぶりにライブハウスで会えたココロオークションは、いつもどおり幸せな空間を作って待ってくれていたけれど、これまでのどんな瞬間よりも、今が一番かっこいい最新のココロオークションだった。

これから本格的に夏が始まる。
ココロオークションの音楽がよく似合う季節だ。

P.S.
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