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長谷川晶一『オレたちのプロ野球ニュース 野球報道に革命を起こした者たち』

 スポーツ関係の映画・ドキュメンタリーを紹介するnote。今回も映像作品ではなく『オレたちのプロ野球ニュース 野球報道に革命を起こした者たち』(新潮文庫)を取り上げたいと思う。

 本書は、現在もフジテレビCSで放送中の『プロ野球ニュース』について、放送開始から地上波徹底までの歴史を番組関係者の証言から紐解く内容となっている。元々、2017年に発売された書籍であるが、本年(2021年)4月に加筆等を加えた文庫版として発売されている。
 アラフォー世代の当方は、地上波時代をギリギリ知る層だと思うが、同番組が現在までのスポーツ報道に大きな影響を与えた大きな存在であることを再確認させられる内容となっている。近著『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(インプレス) もそうであったが、著者・長谷川晶一氏の綿密な取材・インタビューを重ねた力作となっている。

〇 「スポーツジャーナリズム」と「スポーツエンタテイメント」

 本書が興味深いと感じたのは、著者・長谷川氏が『プロ野球ニュース』放送を巡るテレビ局(フジテレビ)側の事情に着目した点である。
 放送開始当時の日本テレビ『11PM』に代表される当時の深夜帯のお色気番組への対抗軸となる硬派な番組というコンセプト、FNS(フジネットワークサービス)各局が総力を上げて確立した放送体制、フィルム時代の中継映像を生放送に間に合わせる映像製作現場の奮闘、そしてメインキャスターの佐々木信也氏を中心とした野球の魅力を掘り下げる様々な企画等、今では失われたフジテレビらしい攻めの姿勢が窺い知れる、挑戦的な番組の1つだったと位置づけることができる。

 一方、本書後半に取り上げた佐々木信也氏の降板に代表される硬派な「スポーツジャーナリズム」から新規層を意識した「スポーツエンタテイメント」への方針転換は是非の分かれるところだと思う。熱心な野球ファンにとっては最適なコンテンツとして成長した『プロ野球ニュース』であるが、90年代に差し掛かったところで新規層の取り込みを狙った新たな路線に踏み出すこととなる。中井美穂さん、木佐彩子さん等のフジテレビの女性アナウンサーが番組で起用されるようになったのも、番組リニューアルからの流れであることを初めて知った。
 本書では、方針転換を図ったフジテレビにおける局内改革との関係、転換期に抜擢された中井美穂さんを含めた関係者の貴重な証言を収めており、熱心なファンが陥りがちな「方針転換=悪」という結び付けにしない立体的な構成となっている。

〇 「継承」と「革新」

 番組コンテンツの深化とリニューアル路線の関係性は、現代におけるマニア層・ライト層の問題にも通じるものだと考えられる。1993年のJリーグ開幕をはじめとする野球一強からの転換、放送メディアの拡張と時代の流れを考えると、新規層の支持獲得を目指した方針転換は決して間違いではなかったと考察することができる。

 その反面、「革新」を目指した新しい要素を取り入れたことで「継承」できずに失われてしまった番組の魅力があり、番組の根幹が揺らいだことは確かだ。本番組のテイストは、現在に至るスポーツ報道番組のエンタメ路線の走りになったとも考えている。本書を読みながら、サッカー専門番組『やべっちFC』や『スーパーサッカー』の放送終了を思い出しながら見ていた。

 『プロ野球ニュース』の方針転換がもたらしたポジティブな側面として、スポーツ報道の場に女性が活躍する環境を切り開いた点は評価すべき点だろう。女性アシスタントを採用した背景はもう少し安直なものであったことはインタビューを読むとわかるのであるが、スポーツ報道の現場に女性が携わることが当たり前になってきた現在を踏まえると、人気番組の看板をいきなり背負わされることとなった中井美穂さんたちの貢献度は大きいと思う。

 ただし、個人的にはまだまだ女性の立場から野球という競技の魅力を語る機会は限られていると思う。『内田篤人 FOOTBALL TIME』等で活躍する日向坂46・影山優佳さんはサッカー界においても革命的な存在であったが、女子プロ野球も新たな動きを見せている中で語れる人材の登用に乗り出してほしいと願っているところである。

 このように、本書は野球に限らず、『プロ野球ニュース』という番組の歴史を知ることで、スポーツの魅力をいかに伝えるのかを多角的に検証することができる内容となっている。番組を知る野球ファンはもちろん、スポーツ報道に関心がある方などにもおススメしたい。




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