作風の変遷 〜モーリス・ユトリロ展〜
パリの風景を描いた画家として日本でも人気の高いモーリス・ユトリロ(1883-1955)。
奔放な母親に育てられ、孤独な少年時代を過ごしたユトリロは、10代の若さでアルコール依存症になってしまう。しかし、その治療のために絵を描き始めた彼は、すぐにその才能を発揮するようになる。
ユトリロの作品は、その作風によって3つの時期に分けられている。
初期は、やや暗い色調の「モンマニーの時代」。
そして、白を基調にした建物や壁を多く描いた「白の時代」。
その後、多くの色を用いて風景を描いた「色彩の時代」。
このうちで最も人気が高いのは、ユトリロが20代の後半から30代前半にかけて描いた「白の時代」の作品である。
その印象的な白い色を出すために、彼は絵の具に石膏や砂などを混ぜてリアルな質感を表現したという。
「白の時代」の作品に共通するのは、描かれた建物の窓が閉じていることである。彼がキャンバスに描いていたのはパリの風景だけではなく、己の心の閉塞感でもあったのだろう。
後年、ユトリロは画家として国内外で高く評価され、国家勲章を受章するまでになった。その作品は高額で取引されるようになったが、売上の多くは家族に搾取されていたそうだ。
晩年の彼は、画商や周囲の求めに応じて「白の時代」を自ら模倣したような作品も描いている。ただし、「白の時代」とは異なるところがある。それは、描かれた建物の窓が開いていることだという。
画家の作風にその人生が反映されるのは、ユトリロにかぎったことではない。いや、画家だけではなく、作家、音楽家、映画監督などのクリエイターにも共通することだろう。
もしも、何十年も作風が変わらないクリエイターがいるのだとしたら、それは過去の自分の作品を模倣しているだけなのではないか、とも思える。
そういう過去の自分をなぞったような作品は、商業的にはそれなりの成功を収めるのかもしれない。だが、晩年のユトリロが描いた「窓の開いた白い建物」と同じで、人々の心を揺さぶることは難しいだろう。
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