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シミュレーション

 今月2日、ジャニー喜多川氏の性加害の問題をめぐってジャニーズ事務所が記者会見を開いた。その際、運営を任されていたコンサルティング会社が、複数の記者やフリージャーナリストの名前や写真を載せて質問の指名をしないようにする「NGリスト」を会場に持参していたことが問題視されている。

 質問を「1社1回」に絞ったうえ、「NGリスト」をもとにして質問をコントロールすることで、会見が「円滑に」進むようなシミュレーションをしていたものと推測される。


 ・・・あれは小学校2年生のときだった。断片的な記憶になってしまうが、理科の授業(当時はまだ生活科がなく、1・2年生でも理科の授業があった)で、粘土の「おもり」と竹ひごとでヤジロベエを作り、「左右の竹ひごのどこに『おもり』をつければ釣り合うのか」という実験をやっていたと記憶している。
 その日は、なぜか担任以外にも数人の先生たちが教室に来ていて、不思議に思った覚えがある。
 最初のうち、私は同じ大きさの「おもり」を左右につけていたが、試しているうちに違う大きさでも釣り合う場合があることに気づいた。図に表すと、こんなかんじだ。

 すると、周りで見ていた先生の一人が、
「これは面白いね。発表してごらん」
 と言った。
 言われるままに全体の前で発表すると、授業が終わった後に担任の先生からこう言われた。
「次の理科の時間にも、さっきのことを発表してね」
 そして、担任の先生はこう付け加えた。
「発表してもらうのは、たぶん授業の後半になるからね」

 ・・・数日後に次の理科の授業があった。この日の教室内には前回の何倍も、それもこれまでに見たことがない大人が大勢来ていた。
 授業が始まると、すぐに違和感を覚えた。担任が話す言葉も、粘土の「おもり」と竹ひごとでヤジロベエを作ることも、何もかもが前回の授業のままなのだ。
 それでも同じようにヤジロベエを作り、同じように手を挙げると、授業の後半に指名され、同じように発表をした。

 ・・・それから10数年後、大学の教育学部に進学し、講義のなかで日本の学校には授業研究や公開授業という「文化」があることを知った。そのとき、
(ああ、あれは公開授業のためのシミュレーションだったのだな)
 と思った。まあ、子ども心にも薄々感じていたことではあるのだが。


 ジャニーズ事務所の記者会見に関するニュースを見て、思い出したくもないことを思い出してしまった。

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