見出し画像

「会議は踊る。されど進まず」(前編)

 1814年~15年にかけて、オーストリアの首都で「ウィーン会議」が開催された。その目的は、フランス革命とナポレオンの対外進出によって混乱したヨーロッパ社会の秩序を再建することにあった。

 だが、参加国の元首や大使たちは舞踏会への出席と水面下での駆け引きに明け暮れ、会議は一向に進まない。

「会議は踊る。されど進まず」
 という言葉は、その様子に業を煮やしたフランスの代表タレーランが、皮肉を込めて放った言葉だといわれている。


 給特法に基づく教職調整額の在り方などについて審議する中教審の特別部会(第12回)が、4月19日に開催された。

 その結果、注目の「教員の処遇改善」については、
 給特法の教職調整額を「少なくとも10%以上」とする
 という方向で決着をすることが確実になった。

 しかし、これは「教員の長時間労働の是正」を図るための方策にはなり得ない。むしろ、「定額働かせ放題」と揶揄される働き方を定着させることになってしまうだろう。

 この会議の翌日、給特法の維持に一貫して反対してきた立教大学・中原淳教授は、X(Twitter)に次のような投稿をしている。

X(Twitter)より

 中原教授自身、中教審の「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」で委員を務めていた時期がある。

 特に前半の4行は、そのときの体験を踏まえての感想だろう。


 私も平成31年(2019年)の3月から2年間、中教審の教員養成部会に設けられた初等中等教育分科会で臨時委員を務め、教員免許更新制の見直しなどについて審議をしたことがある。そのときの経験も含めて、中原教授が問題提起した内容について補足をしてみたい。

中教審が「教育改革の戦略を描き実行する」のは難しいと感じます。利益代表者の集まる、あの短い時間で一方向的に意見を投げつけ、議事録に加筆。

【「利益代表の集まる」という点】
 中教審の部会のメンバーは、大学教員のほか、研究・研修機関、首長、経済界、教育委員会、校(園)長会、労組、PTA、教育関連の企業や団体、マスコミ等の代表によって構成されることが一般的である(ちなみに私は、委員に選ばれた当時、教育委員会の人材育成部門で課長を務めていた。そういう「枠」で選ばれたものと思われる)。

 一見、幅広いメンバーが集まっているように見える。ただし、これらの委員は文部科学省の「一本釣り」によって選ばれる。文科省にとって都合のよい人選をすることも可能なのだ。

 今回、大学教員の「枠」で選ばれている委員は、いずれも教育学の各分野における第一人者である。しかし、だからと言って「教員の働き方」について現場感覚のある俯瞰的な見方ができるとはかぎらない。

 では、現在の教員たちが置かれた「働き方」の問題について造詣が深い大学教員は誰かといえば、
 中原淳教授(立教大学)のほかには、
 内田良教授(名古屋大学)
 末冨芳教授(日本大学)などだろう。

 もしも現職教員の「ファン投票」によって委員が選ばれるのであれば、この3名は確実に上位に入るに違いない(ついでに申し上げると、今回の委員の中で「ファン投票」で選ばれそうなのは、妹尾昌俊氏ぐらいだと思われる)。

 一方、
「委員の中には、公立の小中学校の代表者も含まれているではないか。彼らはなぜ、利益代表としての発言をしないのか」
 という疑問をもつ方がいるかもしれない。

 たしかに、この特別部会では小中学校の校長が1名ずつ委員を務めている。しかし、正確に言うと彼らは「校長会」の全国組織の代表であって「教員」の代表ではないのだ。

 仮に給特法が廃止され、教員に「時間外勤務手当(残業代)」を支払うことになれば、校長には労務管理上の大きな責務が生じる。けれども、給特法によって「教職調整額」の仕組みが維持されれば、その責務を免れることができるのだ。(※)

(※)本当は、給特法の下でも校長には労務管理をする義務がある。しかし、実際にはそう考えていない校長も多い。

 給特法の問題に関して、校長と教員の利害は対立する。彼らはあくまでも、校長側の利益代表者なのである。
(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?