見出し画像

不安を抱えていても、できることはある

 ある人に辛い思いを少し聞いてもらうことになった時、涙が溢れたのだが、ふと気づくと相手も涙を流していた。何もアドバイスはせず、同意もせず、ただ涙を流していた。ただ、話している私を見ていた。
 私はその相手のありように確実に救われたのだった。私は、こんなふうに人の話を聞いたことがない、そう思った。
 いつしか私はその人のことを尊敬するようになっていた気がする。まだまだ若いし、経験不足だったりもするのだろうけれど、聡明で、自分というものをしっかり持っている。自分のことを自分で決めることができて、絶対に手綱を他人に握らせたりしない。その人自身、自分の生き方について他の人から「もっとこうしたらいいのに」って言われることもあるようだけれど、でも揺るがない。しかも必要なことについてはきちんと他人に助言を求めることもできる。

 私がその人を尊敬するのは、絶対に「他人のことを決めつけない」からだと思う。だからこその、あの話の聞き方なのだろう。私は相談してきた相手にアドバイスをできることこそ、すごいことだと思っていたが、ただ聞くことが相手の心を落ち着かせることができるのだということを経験して、必ずしも立派なアドバイスばかりが価値を持つのではないのだなと知った。ただし、これは「相手のことを決めつけない」という徹底した心がけがないと成り立たないのではないだろうか、とも思う。この辺のことについては、まだ検証中。

 逆に、相手の状況を自分の感覚で決めつけて、ナイフのような言葉を次々と繰り出す人もいる。そして、実はその人自身がすごく不安を抱えていたりする。でも、不思議なことにそれを自覚していない。そういう人とはもう話をしたくない、と思う。知らないのに知っていると思っている人の言葉は、相手の心に再起不可能な傷を負わせることができてしまう。だから、そういう人とは話さなくていい。

 いろいろな人にこれからも出会うだろうけれど、とにかく生きていこうと思う。そして、難しいけれど、冒頭に書いた人のような話の聞き方をできる人として生きる、そういう時間ももちたいと思う。私の仕事は、話を聞きながらも、とにかく決断をして次に進むべき道を作らなくてはならないことの連続なので、ただ聞く、ということをつい忘れがちなんだけれど、それでも「決めつけない」ことは忘れずにいたいと思った2024年のはじまりだった。


この記事が参加している募集

今年やりたい10のこと

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?