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読書感想文①〜村山由佳さん『星々の舟』を読んで〜


なぜこんなに夢中でページをめくってしまうのだろう。

村山さんの作品は、これでもかというほど人間の弱さや脆さを抉りだす。

人間とは、どこまでも救いようのない、どうしようもない存在である。

理屈では間違っていると思いながらも、何度も過ちを繰り返す。裏切られるとわかっていても、人を好きになる。人を傷つけ、人に傷つけられる。してはならないと知りながら、してしまう。そうして自分でやっておきながら、何度でも打ちひしがれる。人間とはそういう生き物だ。なんと非合理的なことか。

それは、人間が決して理屈では割り切れない複雑さを持って生まれた動物であるからではないだろうか。

しかし同時に、それが人間らしさでもあり、美しくもある(と、僕は感じる)。


「人はだれしも、”何か”を背負って生きている」

村山さんは、その”何か”を丁寧に描く。
きっと自分の中にあるどうしようもないほど弱くて醜い部分を、ほんの少しだけ一緒に背負ってくれているような気がするからなのかもしれない。

読んでいると、いくつもの感情がねじれ、もつれながら同時に湧いては消え、湧いては消えを繰り返す。優越感と恥ずかしさ。嫉妬と羨望。自尊と嫌悪。

各短編で、家族それぞれの視点から一人称で語られる物語は、過去と現在の時間軸を自在に行き来することで、右へ左へ、前へ後ろへと感情が激しく揺さぶられる。

それでいて、流れるような自然なリズムで描かれる情景が透き通っていて、圧倒的に美しい。
濃やかで、艶やかで、みずみずしい。


残酷なまでに現実の生々しい”人間”を読者につきつけておきながらも、
そのずっと奥に筆者の深い愛を感じる。


到底言葉や理屈では説明できない愛があると、そう感じる。


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