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音声燻製

「パパはなんで声が高いの?」
娘も小学生になりとうとう俺のハイトーンボイスに気付いてしまった。変声期がなく高い声がコンプレックスだった俺は、深い味わいのある声に燻してくれるという伝説の音声燻製師を探していた。
その日は曇天で町中に霧が立ち込めていた。私は仕事のため駅に向かっていた。
「煙霧だ。音声燻製師が来ているからしばらく電車は動かないよ」
音声燻製師だって?
「どこに?」
「さぁな霧の生まれるところだろう」
煙霧を辿ると白い煙のむこうに人影が。
「あんたかワシを探しているのは」
「頼む!俺の声を燻してくれ!」
「どんな声が望みだ。エルビスか?プリンスか?声の染み付いた家の端材をチップにしているんだ」
「渋いドスの効いた声に」
「ほうほう」
俺は数日かけて燻された。

「パパ、お声がシワシワ。煙臭い」
「ハハハ!虫も寄らないぞ」

あれから40年。
たっぷり燻された声の成果か、
娘にまだ虫はつかない。

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