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チャリンチャリン太郎

うちの両親は仲が良い。でも別居してる。
「カッコよかったのよ。颯爽と現れて」
母さんはいつも父さんと初めて出会った時の話を惚気る。
「蹴躓いて転んでたら後ろからチャリンチャリンと音がして、自転車に乗った男が近づいてきたの」
『怪我してるじゃねぇか。乗っていきな』
『自転車の二人乗りは法律違反だわ』
『大丈夫。俺は自転車一体型人間、チャリンチャリン太郎だから』
そうして母は父に跨り、私が生まれた。
父は自転車一体型男なのでマンションの駐輪場で暮らしている。この距離感が仲良しでいる秘訣らしい。
「父さんは寂しくないの?」
「たまに母さんが俺に空気を入れる、俺は母さんにいれる、それだけで満足よ」
父は錆だらけの体でギシギシ笑う。
「駅まで乗っていくか?と言いたいが俺は母さんしか乗せないんだ」
父のこういうところが母は好きなんだろう。
「この街にもいつの間にか自転車一体型男が増えた…お前もいつか誰かに跨るんだろう」
父のこういうところが私は嫌いだ。

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