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【生々_世々】母へ

この作品は、2023年クリスマスに向けて【贈り物】をテーマに東田旧作(X:@spsd_0)さんとそれぞれ短編を創作しました。
企画名「生々_世々」

サムネイル作成:東田旧作

東田さんの作品「骨化祈願」▽
https://x.com/spsd_0/status/1737434092222984578?s=20

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島崎:うつきさん、うつきさん。うつきさん!いらっしゃいませんか。
うつ木:おりますよ。なんですか。
島崎:ああうつきさん。お探ししましたよ……
うつ木:なんです
島崎:いいえ、あの、なんといいますか、
うつ木:なんですよ、この夜中にあなた。
島崎:ええ、夜分にすみません。しかし明日があの、母の誕生日だもので、その、
うつ木:はぁ
島崎:いえあの母くらいの年の人が何を喜ぶかと思いまして、それをお聞きしたくて……
うつ木:なぜ私にきくんでしょう。
島崎:母と同じくらいの年の方がうつきさんしか思い当たらないものですから
うつ木:そうですか。私はそのくらいなおばあさんに見えますか。
島崎:あはは……まぁあわよくばこちらで買い物を済ませられたらよいなと思いましてね。
うつ木:ま、よござんす。まぁねぇ、まずはおかあさまのお悩みによりますわねぇ。
島崎:例えば、悩みと言いますと
うつ木:耳・目の悪いところから、買い物内容や息子の顔を忘れるところまでいろいろあります
島崎:ああ。目がかなり悪いですね。
うつ木:それなら良い眼鏡がありますよ。
島崎:世の中にピントが合わないなんか言いましてね
うつ木:そんな方に良い物がありますとも。世の中ごと度数を合わせる眼鏡です
島崎:なんですかそりゃあ……そんな強いものは母には合わないでしょう。
うつ木:ふむ。他には。
島崎:他に悩みと言いますと、母はよく人に騙されます。
うつ木:それならば良い耳がありますよ
島崎:耳。
うつ木:そうです。嘘用と本当用で二重になった耳です。
島崎:はぁ、犬のような耳ですね。これは母が嫌がるでしょう。
うつ木:そうですか。他には何か。
島崎:他に母の悩みはというと、みんな私に関するものですかねぇ。
島崎:私はどうも母と似すぎていてうまくいかぬことも多く……
うつ木:そりゃどこでもそういうものですよ
島崎:私の母は料理の味付けが薄くって、出汁はきちんととるので味はいいのですが、どうも塩が足りなくて。子供の頃は良かったのですが、大学生にもなると外食もしますからちょっと物足りなくて……それで外で買って食べることも多くなったのですが
うつ木:怒られましたか
島崎:怒られましたね。そのくせその次の日には少し味が濃くなっていたりして。
島崎:そういう気遣いが余計にこう、私を母の料理から遠ざけたと言いますか。
島崎:ほどなくして一人暮らしを始めてしまいました。ろくに帰省もせずに。
うつ木:そうですか、お手紙なんかは。
島崎:いいえ。時折お中元などは贈りましたが、ああいうのはカタログを見て決めるものですから、自分から贈ったという感じもしませんでしょう。
うつ木:けれども今ご自分で選んで贈ろうとなさる
島崎:一度もそういうことをしてこなかったので。いまさらとは思うのです。
うつ木:いいえぇ、遅いことはありません。良い物がたくさんありますよ。
島崎:いえその……母は二年前に死んだものですから……
うつ木:そうねぇ。わたしは生きておれば今年で79になります。
島崎:何が、良かったのでしょうね。どういうものが好きだったのでしょう。私、さっき叔父から聞いて、母の誕生日をようやく思い出しました。
島崎:何を贈ってもあまり喜びそうにも思われなくて、いいえ半分は自分が気恥ずかしかったのだと思いますが、何も贈ってやれなくて。
島崎:せめて実家に帰って、母の料理を食べてやればよかったなと、思います。
うつ木:そうねぇ、まぁ子供がそう思ってくれるのも母には良い薬です。
うつ木:よく眠り、栄養のあるものを食べて、結婚は一回くらいした方がよいでしょう。母はそう思います。
島崎:いや結婚はしないです。
うつ木:まぁそれでもいいですけれども。
うつ木:それでもいいですよ。
島崎:そうなんですかね。
島崎:あの。……「いつもすみません、でした。」
うつ木:いいえ。
0:(ぱちり)
島崎:……ああ、すみませんこんな夜中に。
うつ木:いいんですよ。贈り物は決まりましたか。
島崎:ああ、ええ。まぁ。特に物を贈らずに、時々墓に会いにいってやることにします。
うつ木:そうですか。それが一番よいでしょうね。
島崎:ありがとうございます。
うつ木:ええ、またいらっしゃい


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