労働判例を読む#334

今日の労働判例
【千鳥ほか事件】(広島高判R3.3.26労判1248.5)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、外国人技能実習生Xらに対して、受入先会社などのYらが、技能実習内容とされたパン製造作業だけでなく、飲食店での業務も行わせた結果、Xらが入管法違反を理由に逮捕拘留されてしまったことによる様々な損害の賠償をYらに対して求めた事案です。裁判所は、Yらの責任を認めました。

1.技能実習内容の拘束力
 Yは、技能実習内容に関して、パン製造作業以外にも仕事を与えることができるのかを事前に監理団体(これも相被告)に確認し、主目的でなく、目の届くところでなら大丈夫、という見解をもらっていた、などと主張し、責任が無いと主張しました。
 しかし1審・2審いずれも、Yの主張を退け、責任を認めています。
 これは、入管法制度上の技能実習制度の趣旨、すなわち日本の技能を学んでもらうという限られた目的で入国が許されることから考えると、技能実習を受け入れる会社が技能実習内容を厳守することは当然に理解できることで、監理団体からこれと異なる説明を受けても責任を免れない、ということを意味します。実際、技能実習制度の悪用や濫用が繰り返し社会問題になっており、制度自体の改正や運用の厳格化が繰り返し叫ばれていることを考えれば、それと逆行するような解釈や運用は受け入れられない、と言われても仕方が無いかもしれません。

2.実務上のポイント
 けれども、例えば技能実習内容について「パン製造作業」ではなく、「飲食物の製造・提供作業」のように幅広く定めることができる場合にはどうでしょうか。一つの仕事を掘り下げるだけでなく、それを幅広く応用して展開していく部分も、ビジネスとして学ぶところがあるはずですから、「飲食物の製造・提供作業」のような技能実習内容にも、技能実習制度としての合理性が認められるように思われます。さらに、パン製造作業だけでは時間を持て余すようなことがあるかもしれません。
 もしこれが認められるのであれば、Yは最初からこのように技能実習内容を定めればよく、Xらも逮捕拘留されなかったはずです。
 技能実習内容にどのような記載が許されるのか、法務省の実際の運用次第でもあり、一概にこうあるべきであると評価することが難しい問題ですが、少なくとも言えることは、せっかく働いてくれている外国人技能実習生が逮捕されるような事態は避けなければなりません。技能実習内容の定め方や運用の仕方について、慎重でなければならなことが理解される事案です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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