労働判例を読む#332

今日の労働判例
【製麺会社A事件】(旭川地判R2.8.31労判1247.71)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、製麺会社Yの従業員が、製麺機の操作中に左手を巻き込まれてけがをした事案です。
 裁判所は、製麺機の刃がむき出しであった点や安全教育が不足していた点にYの責任を認めて損害賠償を認めるとともに、他方、Xにも不注意があったとして3割の責任を認めて賠償額を減額しました。

1.実務上のポイント
 ここで損害賠償金額が減額されたのは「過失相殺」であり、X側の事情が考慮されました。
 この意味について、Xは具体的な注意義務違反のあることが必要であるかのような主張をしているようですが、裁判所は、「必ずしも注意義務違反には限られず、被害者の不注意をも過失として斟酌することができる」としました。
 注意義務違反と不注意の違いは必ずしも明確ではありませんが、注意義務違反の場合には他人に対して負うものである(一般に義務は他人の権利に対応するものであり、権利者の存在が前提になっているからです)のに対し、不注意の場合は自分の身を守らなかった場合も含む、という意味の違いがあるのでしょうか。
 裁判所は、不注意も含める点について「損害の公平な分担の理念」を根拠にしますが、この理念から過失相殺だけでなく損益相殺や寄与度など、様々な切り口からも損害賠償額の減額調整が行われます。したがって、注意義務違反と不注意の違いが何かを問題にするよりも、諸事情が広く考慮される、という点を理解しておくことが重要です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?