労働判例を読む#243

【テヅカ事件】福岡地判R2.3.1労判1230.87
(2021.3.26初掲載)

 この事案は、定年退職後に再雇用された従業員Xが、会社Yから、当初の期待よりも早く更新拒絶されたことからその効力が争われた事案で、裁判所はXの請求を概ね認めました。

1.更新の期待
 労契法19条2号が適用され、Xには更新の期待があると評価されましたが、そこで特に注目されるのは、健康状態に問題がなければ自動的に更新されるような運用がされていたことが直接の根拠として指摘されているほか、事案概要の説明の中で、重要な業務を担当していた事実も認定されている点です。補助的な業務と基幹業務を比較すれば、後者の方が更新の期待が高いと言えますが、最近の裁判例ではこの点を特に指摘するものを多く見かけます。更新の期待が問題になるのは有期契約社員ですが、有期契約社員に本来の補助的な業務でなく、無期契約社員と同様の基幹業務を担当させれば、両者の違いが相対化されていき、更新の期待も高まっていくことになります。
 このように、有期契約社員と無期契約社員の関係が相対化していくと、同一労働同一賃金の関係でも処遇の違いの合理性を説明できなくなっていきます。両者には共通する問題が横たわっているのです。
 会社は、有期契約社員と無期契約社員の役割分担と処遇の違いについて、点検し整理しておく必要があります。

2.更新拒絶の合理性
 裁判所は、経営が困難で合理化が必要だったとするYの主張に対し、一定の理解を示したものの、人件費削減のためにXの契約の更新拒絶が有効と判断すべき検討がされていない、Xに提示した代替案の合理性や組合との交渉も適切でない、として更新拒絶を無効としました。
 これでは、合理化が必要な会社が、有期契約者から整理していくことができなくなる、という不満が出されるかもしれません。
 けれども、整理解雇などが問題になった最近の事案で、裁判所は、会社の危機的状況を適切に分析し、再建案を十分検討した事案で整理解雇を有効と評価するなど、会社による経営判断を認める事例もいくつか見かけます(#157「ユナイテッド・エアーラインズ(旧コンチネンタル・ミクロネシア)事件」東京地判H31.3.28労判1213.31など)。かなり詳細に、経済状況や経営状況、経営判断の合理性などを検証しますので、従業員の雇用契約を解消するにはそれだけ会社側も相当な手間がかかることになりますが、けれども裁判所は、経営上の必要性や合理性についてちゃんと聞く耳を持っているということでもあります。
 この事案でも、Xの契約を更新拒絶する経営上の必要性や合理性をYが十分検討し、その過程が記録されていれば、異なる結論になったかもしれません。

3.実務上のポイント
 さらに、Xの能力に問題があった点もYは主張していますが、その点も十分な証拠がなく、裁判所に認められませんでした。有期契約者の場合には、無期契約者の場合の人事考課と基準も方法も異なり、なかなか手が回らない会社も多いでしょうが、人事考課を適切に行い、能力などに問題のある有期契約者にはそれ相応の評価を与え、フィードバックしておくことは、更新の期待についても、更新拒絶の合理性についても、会社側の本来の意図を正しく理解してもらうために有効です。
 有期契約者の労務管理の在り方についても、確認しましょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!



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