労働判例を読む#326

今日の労働判例
【インテリジェントヘルスケア(仮処分)事件】(大阪地決R3.2.12労判1246.53)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、会社Yの就業条件の変更(祝日の減少など)に批判的な従業員Xが、大阪から倉敷への配置転換・転勤を命じられ、これを拒否したことが原因となって解雇された事案です。裁判所は、解雇を無効として、Xの生活のために賃金の仮払いを命じました。なお、従業員としての地位を仮に定めるように求めていた点について、裁判所は否定しましたが、この点の検討は省略します。

1.判断枠組み
 裁判所は、転勤命令の有効性について、①業務上の必要性がない場合、②他の不当な動機・目的の場合、③著しく大きな不利益を負わせる場合、等の特段の事情の存する場合には権利の濫用になるという判断枠組みを示しました。これは、東亜ペイント事件の最高裁判決(S61.7.14労判477.6)の示した判断枠組みで、現在も多くの裁判例がこの判断枠組みを採用しています。
 そのうえで裁判所は、①に関し、倉敷の事業所の立て直しなどの理由を主張しましたが、裁判所はこれを裏付ける資料がないこと等を指摘し、②に関し、Xが就業条件の変更を問題とした1か月後に転勤命令が出された点を指摘し、配置転換を無効と評価しました。
 他方、③については、配置転換の有効性に関する議論としては明確に論じられていません。しかし、給与の仮払いの必要性にかかる事情として、Xが母子家庭で家計を支えていたことなどが指摘されており、これらの事情も判断に影響していたようです。

2.実務上のポイント
 転勤命令が、言わば報復人事だった、と見られる事案です。①~③のいずれかがあるだけでも転勤命令が無効になるところ、転勤命令の必要性自体、Yが十分に説明することができない状況で、Xによる批判後まもなく転勤命令しているのですから、①②の二つに該当すると評価されてしまいました。
 仕事上のミスであれば、ミスした直後に指導しなければ効果が薄れる、という説明も可能でしょうが、本事案ではXのミスがあったわけでもありません。従業員の処遇に関わる問題は、結論を急がずに丁寧に検討や導入を進める必要があります。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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