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超次元的実戦川柳講座 その1「字の猫」

 
(序。以下の文は伊那市芸術文化講座「現代川柳を学ぼう」2021年12月18日、第二回目の講義をもとに作成しました。川柳の「良し悪し」ではなく、ある川柳を「どのようにして作るのか」という「技法」の習得に主眼を置いた講座になっています。したがって、「鑑賞」とはやや位相がずれた読み方になっていること、ご承知おきください。また、実践的な練習も行いますので、お時間ある方は筆記用具を用意して、自ら試行されることをお薦めします)

(序の補足。本記事は有料ですが、途中まで無料で読めます。続きが気になる方、単体で買うより月定額マガジンのほうがお得です。これは資本主義の悪魔の囁きです)
 
  縊死の木か猫かしばらくわからない
                石部明

 
 こんにちは! 世間のオーソドックスの隙間をかいくぐる川柳講座、今日はnoteで初の開講です。よろしくお願いします。
 今日ははじめに、石部明の句を読んでみようと思います。石部明さんについてはこちらも参照→https://sctanshi.wordpress.com/revi/ishi/
 どなたか朗読してくださるかた……あ、まあ、こちらで読みますね。

「縊死の木か猫かしばらくわからない」

 さて、「なんのこっちゃ?」と?マークが飛び交っているのではないかと思われますが、「この句がどういう意味を持っているか」という解読はしません。いや意味を語るためにはまず、意味、っていうのを定義づけなきゃいけないんだけど、あまりに大きな課題なので、今はしません。
 とりあえず「作者はこんなことが言いたかったんだよー」という「答え合わせ」はしません。それは「意味」がないので。また意味という言葉を使ってしまいましたが。
 今日ここで読むのは、この川柳に使われている技法です。どんな手法で句が書かれているか、これも作者でないかぎり「正解」はわからないんですが、読める限り「この技法」と読めるところを見てゆこうと思います。あ、できれば「自分がこの句を作っているとしたら」という仮構のもとに読んでみてくださいね。

  縊死の木か猫かしばらくわからない

 まず注目してほしいのが、5・7・5になっているということです。川柳なんだから当たり前じゃん、と思われたかもしれませんが、この内容を5・7・5にまとめるのは、実はテクニックがいることなんですね。また先回りして言ってしまいますが、5・7・5だからこの句ができた、と言えるかもしれない。どういうことか見てみましょう。
 まず「縊死の木」という言葉です。普通言わないですよね、縊死の木、とか。「木か」までは人間、思いつくと思うんですよ。それが5音にするために、「縊死の」っていう3音を持ってくることになるのですが、この3音の選択が、難しいところでもありおもしろいところでもあるわけです。もっと言うと「縊死の」って言葉は「縊死」+「の」ですから、実質この「いし」の2音を考えなければならない。さっき言った、「自分でこの句を作るとしたら」ということを思い浮かべてみてください。「縊死」っていう2音、これを出してくるのって、結構たいへんな作業で。いやまあその大変さが「作る」うえでの楽しさでもあるんですが。2音の言葉って、ぱっと思いつきます? 冬、朝、花、月、風。とか出せばいくらでも出せるんですが、たいていまっさきに出てくるのは、どうしてもイメージが手垢のついた、限定されたものになりやすい。2音で「自分にしかできない表現」を探すには、これはもう普段から、2音、の言葉を採集しておくのもひとつの手だと思います。日常生活でも読書体験でも(この二つにあまり差はありません)、または何らかの情報を取得する機会があったら、「2音」というものにちょっと注目してみてください。そのなかで自分なりに使えそうなものがあったら、ストックしておきましょう。
 で、その2音と「の」で3音になるわけですが、そのあと「木か」の2音でで上5にしているわけです。この「木か」の2音をさらに分析します。「か」を外すと「木」という1音で表現しているわけです。この1音というのがまた悩ましいところで。思いつく限り、木、酢、無、死、絵、血、蚊、などあるんですが、川柳を作っていて、「ここに1音入れたい!」というとき、やっぱり頭の中のストックが要求されるわけです。自分が何かを表現したい、でも1音に限られる、というときに何を持ってくるか、この辺が作者の腕にかかっているわけです。ちょっとやってみましょうか。なんでもいいです。2音と1音で思いつく言葉、いくつか挙げてみてください。制限時間、とりあえず1分にしましょう。思いつく限り。はい、スタート!

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