編集者や他の漫画家と話していてアイデアを伝えるとき「他の作品を例に出す」とイメージが一発で伝わります。伝える＝イメージを言語化 。

つまりイメージを形にするのに、多くの作品の知識があるというのは大きな強みになります。
そしてイメージを形にするというのは、すなわち「創作」です。

多くの作品を知っている＝イメージを具現化しやすい
イメージを具現化＝創作

多くの作品を知っている＝創作がはかどる

と言えるのではないでしょうか。
というのが今回の話です。

「芸術とは盗む事だ」というピカソの有名な言葉があります。

「何かを”オリジナル”と呼ぶやつは、十中八九、元ネタを知らないだけ」というジョナサンレセムの有名な言葉があります。

すみませんジョナサンレセムという方は知りませんでした。小説家の方らしいです…

アイデアにオリジナルは無いというのはよく言われる話です。
考えてみれば当たり前の事ですよね。どんな名言でも、その文字と単語は元々あるもので、完全オリジナルの言葉なんて作り出せないわけです。（作っても伝わらないし）

たくさんの作品を知っているというのは、語彙力があるみたいなものです。
同じ感情を持った人間が二人いたとしたら、知っている言葉が多い人のほうが具体的な言葉で説明する事が出来ます。
せっかく感情を持っているのに、言葉を知らなければそれを伝えるすべが無いのです。

話を作る事にもそれは言える気がします。
面白いアイデアを持っていても、そのアイデアの見せ方を知らなければ面白さは伝えられません。
そして「見せ方」という抽象的なものを具体化する時に役立つのが、「他人の作品」です。

よくある会話で、恋人が出来た人に「その人誰に似てる？！芸能人で言うと誰？？」と聞くことがあると思います。
人の顔を説明するには、他の人の顔にあてはめるのが手っ取り早いのです。
「目が細くて…いつも笑ってる感じで…でも不思議な雰囲気もあって…」と言うよりも
「堺雅人に似てる！！！」という方が一発で伝わるでしょう。

「君の名は。」の大ヒット後、背景イラストレーターが仕事を頼まれた時「君の名は。みたいな背景にして！！」と言われることが多くなったなんて話をネットで目にしたことがあります。

既存のものを知っているというのはそれだけイメージを可視化しやすくします。
カッコいいキャラを描こう！と思ったときに0から考えるのではなく「ゾロみたいなキャラで剣以外の武器を持たせたら…」とか「リヴァイ兵長みたいなキャラが学校にいたら…」という風に考えればキャラの性格は組み立てやすいでしょう。

参考にするのはキャラだけではなく、話の展開にも使えます。

最近実際に話した会話で
「記憶喪失の人が忘れた出来事を思い出す時に、どうすればよりドラマチックになるか」というものがありました。

例えば、野球を忘れた人が野球を思い出す時に
「野球」という単語を聞いて野球を思い出しても何もドラマチックではありません。

でも、野球を忘れたのに「野球ボールを投げた時に、自然なフォームで投げられた自分に驚いた」という風にするとドラマチックになります。
身体に染み付いた野球の記憶に気付いたのです。

この野球のエピソードを思いついたのは、
僕の大好きな漫画「ヒカルの碁」がきっかけでした。

主人公のヒカルとずっと一緒にいた幽霊の佐為が消えた時、ヒカルは佐為を探し回ります。

しかし何処にも見当たらず諦めます。
そんな時、久々に囲碁を打つヒカル。

そしてヒカルは一手を打った時に涙を流し、気付きます。
自分の囲碁の打ち方、戦略の中に佐為がいる事に。
ヒカルの囲碁、そのものの中に佐為との記憶が詰まっていたのです。佐為は自分の囲碁の中にいた。

という名シーンです。

このシーンを知っていたからこそ、
「何かを思い出すシーン」をよりドラマチックにする事が出来ました。
設定も何もかも違っていても、こんな風に作品の知識は自分の創作に生かされます。
「どうしたらドラマチックになるか」というとても抽象的な悩みを、他の作品を参考にする事でわかりやすく具現化出来るのです。

組み立て方がわからない時に、
人の作り方を参考にして作るというのはどんな業界でも当たり前の事でしょう。
創作において「パクリ」はタブーですが、「参考にする」ことは当たり前の事だと思ったほうがより様々な作品が生まれていく気がします。

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